債務の一部免除と求償

連帯債務中のある者に債務の一部免除がなされた場合、それが他の債務者に対し、どのような影響を与えるかについて、判例の立場は、全部免除があった場合に比例して、免除を受けた債務者の負担部分について絶対的効力が生じるとするものであるとされる(大判昭15・9・21民集19・20・1701)。しかし、この判例の考え方に従った場合の処理について、諸書の解説には不分明な点がある。

たとえば、ABCが負担割合平等で600万円の連帯債務を負っている事例で、債権者がAに対し300万円の免除を行ったとする。このときの処理は、以下のようになるとされる。

B,Cの連帯債務額は,600万円の全部免除ならAの負担部分200万円だけ縮減し,400万円となったところ,300万円の免除のときはそれに相応するAの負担部分100万円だけ縮減し,結局500万円となる。Aの負担額も,本来200万円だったものが100万円だけ縮減し,100万円になる。

(潮見佳男『債権総論』,法律学の森,527頁)

この点までは、素直に理解することができる。問題は、これに続け、Aが残額300万円の支払いをした場合の処理である。前掲書は、判例の考え方を前提にした場合に、以下のようになると解説する。

Aは,弁済額300万円から自己の負担部分100万円を除いた200万円について,B,Cに100万円ずつ求償することができる。

(潮見前掲書・同頁)

しかし、この記述は、連帯債務における負担部分を額ではなく割合だとする理解と矛盾する。すなわち、判例の考え方に従えば、ABCの内部的負担部分は、順に100万円、200万円、200万円である。そして、ここでAが300万円の支払いをなしたなら、その求償額は、BCそれぞれに対し、300万円の5分の2である120万円になるはずではなかろうか。

もちろん、これとは別に、債権者は、連帯債務残額200万円につきBCに弁済を求めることができ、この支払いにつきBCはAに求償できるから、最終的には、BCに100万円ずつ求償したのと同じことにはなる。

しかし、そういう意味なのであれば、この点の処理につき一言、言及すべきであろう。しかるに、前掲書に限らず、ほとんどの概説書は、これには何ら触れることなく、あたかも負担部分とは負担額であるかのような記述をしている。実は、先ほどの判例の物言いもそうなのである。

被上告人先代ノ負担部分ハ結局元金五千円ナル・・・ナルコト算数上明ナルト共ニ同先代ハ民法第四百五十六条第四百四十二条ニ従ヒソノ弁済ニ係ル金二万円中自己ノ負担部分タル右金五千円ヲ越ユル残額金一万五千円ニ付上告人他二名ノ保証人ニ対シ平等ノ割合ニ於テ之カ求償権ヲ行使得ヘキモノトス

(大判昭15・9・21民集19・20・1701,1718-1719)

私の知る限り、この点の処理について、辛うじて記述するのは、以下の平野裕之「債権総論」のみである。

また、相殺を持ち出すまでもなく、免除があった場合は当然に精算され、自己の負担部分を超えて弁済した部分についてのみ求償権が生じるとすれば、法律関係が簡単である。

(平野裕之『債権総論』〔第二版補正版〕,信山社,375頁)

これは、BCからの求償による相殺を先に精算してしまうということのようである。諸書も同じように考えているのであろうか。そうだとすれば、ちゃんと明言すべきではないだろうか。

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