路側帯のようなもの(1)

.問題の所在

右図のような道路があったとき,車両は図中のCD間を通行してよいのかという問題がある。バイクのすり抜けなどで特に議論されることのようであるが*1,私なりにまとめてみたいと思う。

 
 ================== 白線(A)
   反対車線
 = = = = = = = = =  中央線(B)
   車線 🚴
 ================== 白線(C)
 ++++++++++++++++++ 段差(D)
   歩道 🚶

結論から言えば,図中のCD間は,道路交通法上の「車道」であり,この部分を車両が通行することは,原則として適法である東京高裁昭58・8・3判決*2

ただし,右図と異なり,片側二車線以上の道路の場合,この部分を車両で通行することは,通行帯違反として違法となる余地があろう。

この理解は,前掲東京高裁昭58・8・3判決のほか,大阪高裁平3・3・22判決*3横浜地裁平8・4・22判決*4でも確認され,『執務資料道路交通法解説』*5にも明記される当然の解釈である。

ところが,これを「車道とはいえない」などとした民事の高裁判例
大阪高裁平14・1・25判決*6
もあるなど,裁判例においてさえも概念の混乱が見られる。

そこで,冒頭に示した見解について,以下で説明を加えることにする。

道路交通法上の「路側帯」ではない。

この連載のタイトルにもあるように,前図のCD間は,しばしば「路側帯」と呼ばれることがある。もしこれが「路側帯」なのだとしたら,車両は原則として図のCD間を通行はできないことになる道路交通法17条1項本文*7

しかし,この部分は,道路交通法上の「路側帯」ではない。というのも,道路交通法上の「路側帯」とは,「歩道の設けられていない道路又は道路の歩道の設けられていない側の路端寄り」に設置されるものであり道路交通法2条3号の4*8,図に示すような車道と歩道の区別がある道路に設けられるものではないからである。
このことは,前掲大阪高裁平14・1・25判決でさえも,「同部分の左側(外側)には歩道が設けられているので,・・・同部分が路側帯に当たるとはいえない。」として明確に判示している*9

ただし,裁判例の中にも,図のCD間に相当する部分を「路側帯」と呼んでいるものが多数存在することには注意が必要である。例えば,名古屋地裁平15・6・3判決は「1.0メートルの路側帯があり,さらに,その両側に歩道がもうけられている。」として,車道の外側に「路側帯」があり,さらにその外側に歩道があるという状況を認めている*11

しかし,これらの裁判例は,図のCD間における交通規制が特に争われた事案ではなかったため,日常用語として「路側帯」という用語を使用しているに過ぎないと考えるべきであろう。
したがって,図のCD間は,道路交通法2条3号の4で定義される「路側帯」ではなく,同法17条1項本文の「路側帯通行の禁止」の規定は適用されないのである。
続く

*1:この問題については,「関西FUSION倶楽部」というサイトの「大阪府警交通総務課の回答」も参考になる。

*2:東高刑時報29・8・149.

*3:執務資料道路交通法解説〔12訂版〕157頁.

*4:交通民集29・2・597.これは,歩行者は同部分を歩行してはならないとして,同部分を歩行していて事故に遭った場合につき,歩行者側に大幅な過失相殺を認めた裁判例である。

*5:道路交通執務研究会・野下文生『執務資料道路交通法解説』(12訂版)・157頁.

*6:ただし,この判決の対象となった道路は,上図とは異なり,複数の車線があるものであったようである。そうだとすると,私の見解からも通行帯違反として違法となる場合である。したがって,同判決も結論としては妥当ということになる。

*7:道路交通法17条1項本文「車両は、歩道又は路側帯(以下この条において「歩道等」という。)と車道の区別のある道路においては、車道を通行しなければならない。」

*8:道路交通法2条3号の4「路側帯 歩行者の通行の用に供し、又は車道の効用を保つため、歩道の設けられていない道路又は道路の歩道の設けられていない側の路端寄りに設けられた帯状の道路の部分で、道路標示によつて区画されたものをいう。」

*9:前掲大阪高裁平3・3・22判決(執務資料道路交通法解説〔12訂版〕157頁参照)も,「本件道路には歩道が設置されているため,路端寄りに白線で設けられた帯状の部分が路側帯に該当しないことは明白であり」とする。

*10:この点,本条は道路交通法47条の「停車及び駐車」の方法に関する細則であるところ,高速自動車国道等においては,原則として駐停車を禁止されていることとの関係が問題になる(同法75条の8第1項)。しかし,高速自動車国道等においても,例外的に路側帯への駐車が許される場合があり(同法75条の8第2号),本条は,その場合の駐車方法を定めた規定に過ぎない(木宮高彦他「詳解道路交通法」118頁,「執務資料道路交通法解説〔12訂版〕」461頁)。

*11:前掲大阪高裁平14・1・25判決に引用される控訴理由からすると,原審も「路側帯」という用語を誤用していたようである。

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