「水源」という熟語の構成要素
「水源」という熟語は,その成り立ちが面白い。
「泉」という字は,岩石(「白」)から「水」が滴っているさまを表した象形文字である。したがって,これ自体で「source of water」を意味する*2。
「原」という字は,現在は「平原」の意味に借用されるが*3,本来は,崖(「厂」)から「泉」が湧き出ているさまを表した会意文字である。したがって,これもまた「source of water」を意味する*4(なお,現在は「原」の下の部分を「小」と形作るが,もともとの字形は「厡」ないし「厵」である。)。
「源」という字は,「原」に「水(さんずい)」を増し加えた会意形成文字である。水の「source of water」なのであるから,すなわちこれは,ただの「source of water」の意に過ぎない*6。
「水源」という熟語は,「水」と「源」からなる修飾語・被修飾語タイプの熟語である。そして,水の「source of water」なのであるから,これもただの「source of water」の意に過ぎない。
以上のように,「source of water」を表現するには「泉」の一字で済む。「ゲン」と発音する単語を表すにしても,「原」と示すのみで足りよう。
このように、起源を遡ると「重複表現」になることは,何も「水源」に限ったことではない。
例えば,「肱(ひじ)」という字は,「ひじ」の象形である「厶」という漢字に,手の象形「𠂇」を加えた「厷」という漢字に,「⺼(にくづき)」を加えた字である。「厶」も「厷」も単独で「ひじ」を意味する漢字である。しかるに,さらに無駄な修飾を加えた「肱」という字まで存在するわけである。
また,大和言葉「みなもと」は,「港(水-な-門)」などと同様,「水-な-元」すなわち「水の元」という意味であるから,「水のみなもと」という言い方も,語源に遡れば「重複表現」になる。