サイトを削除閉鎖しないリスク

ネット上には,「サイトを閉鎖するに当たり,当該サイトのコンテンツを全削除することは是か否か。」という議論があるようである。

議論の文脈は少し外れるのであろうが,これに関連して,大阪高等裁判所平成16年4月22日判決(判例タイムズ1169号316頁)という裁判例を思い出した。

この判決は,掲示板上に他人の名誉を毀損する記事を投稿した場合,その掲示板上で*1閲覧可能である限り,名誉毀損行為は継続しており,犯罪は終了しないと判断したものである。

 そこで検討するのに,名誉設損罪は抽象的危険犯であるところ。関係証拠によると.原判示のとおり被告人は,平成13年7月5日,C及びBの名誉を毀損する記事(以下,「本件記事]という。)をサーバーコンピュータに記憶・蔵置させ,不特定多数のインターネット利用者らに閲覧可能な状態を設定したものであり、これによって,両名の名誉に対する侵害の抽象的危険が発生し,本件名誉殿損罪は既遂に達したというべきであるが,その後、本件記事は,少なくとも平成15年6月末ころまで,サーパーコンピュータから削除されることなく,利用者の閲覧可能な状態に置かれたままであったもので,被害発生の抽象的危険が維持されていたといえるから,このような類型の名誉致損罪においては,既遂に達した後も,未だ犯罪は終了せず,継続していると解される。

(前掲大阪高判,強調部引用者)

したがって,閉鎖サイトの過去ログに他人の名誉を毀損する記事があれば,それが10年前のものであったとしても,公訴時効は成立せず,告訴期間も経過せず*2,民事の消滅時効も完成しないのであって*3,むしろ10年にわたって他人の名誉を毀損し続けていたと評価されてしまうことになる。

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それでは,名誉毀損行為を終了させるために,どうすれば良いのか。もちろん,当該記事を削除すればよいのであるが,サイトを閉鎖している以上,管理者パスワード等を記憶していない場合もあろう。

平成15年3月9日,大阪府泉佐野警察署警察官によって, 本件名誉毀損事件を被疑事実として被告人方が捜索されたことなどがきっかけとなり,その2,3日後,被告人は,同警察署に電話し,自分の名前を名乗った上で,「自分が書き込んだ掲示板がまだ残っており,消したいが,パスワードを忘れてしまったので消せない。ホームページの管理人の電話を教えてほしい。」旨申し入れたところ、同警察署側において被告人に対し,「こちらから管理人に連絡の上削除してもらうよう依頼する。」と返答した上,直ちに本件ホームページの管理者であるDに対して,パスワードを忘れたので消せないと言ってきた。そちらで削除してやってほしい。」と申し入れ,同人もこれに異を唱えていなかった事実が認められるところ,この事実は,被告人が,自らの先行行為により惹起させた被害発生の抽象的危険を解消するために課せられていた義務を果たしたと評価できるから,爾後も本件記事が削除されずに残っていたとはいえ,被告人が上記申入れをした時点をもって,本件名誉設損の犯罪は終了したと解するのが相当である。

(前掲大阪高判,強調部引用者)

判旨は,「自らの先行行為により惹起させた被害発生の抽象的危険を解消するために課せられていた義務」を尽くせば良いとするのであるが,このような義務は従来から議論されていたものではなく,具体的に何をすれば良いのか判然としない。本件でも,判示の事実のうち,警察を経由したこと,ホームページの管理者が異を唱えなかったことなどの事情が,どのように評価されているのか必ずしも明らかではない。

そうすると,コンテンツを残すのであれば,それに対するクレーム等には迅速に対処できるようにしておくのが望ましく,サイトを閉鎖した以上,そのような管理に煩わされたくないというのであれば,全コンテンツを削除してしまった方が無難であるということもできよう。

前記裁判例は,理論的な難点も指摘されており*4,具体的事案の妥当な解決を図ろうとしたものにすぎないとも評価できるのであるが*5,今後も踏襲する裁判例がありそうな気がし,民事責任の消滅時効著作権侵害の場合との関係を含め,気になるところである。

*1:山口厚「判批」(平成17年度重判,ジュリスト1313号158頁)は,「記事のキャッシュがどこかに保存され」ているにすぎない場合にも,本判決が妥当すると考えているようであるが,本件は,アップした記事が,アップした場所に残っていたということが問題なのではないかと思う。

*2:もちろん,告訴期間の経過には,「犯人を知った」ことも必要である。

*3:もちろん,除斥期間ではなく,消滅時効の完成であれば,「損害及び加害者を知った」ことも必要である。

*4:前掲山口参照。なお,同書は,実際上の問題点として,「どこかの古本屋で当該出版物が売られている限り,名誉毀損罪は終了しないことにな」ってしまうとするが,その場合,第三者の作為行為が介在するのであって,この点は反論として弱いように思う。

*5:前掲判例タイムズのコメント欄参照。

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