万世一系とダグラス=ヒューム首相

万世一系と遺伝子との関係を云々する議論があった。それで思い出すのは,1963年から1964年にかけ,イギリスの首相を務めたアレック・ダグラス=ヒュームの逸話である。

ダグラス=ヒュームは,1963年,ハロルド・マクミランの跡を継いで,第64代首相に就任した。ところが,彼は,1605年以来の伝統を誇る第14代伯爵であり,下院議員でもないなど,民主的正当性に弱点があった*1

当然のことながら,野党労働党の党首ハロルド・ウィルソンは,この点を攻撃する。そして,これに対するダグラス=ヒュームの返答とされるものがふるっているのである。

As far as the 14th Earl is concerned, I suppose Mr Wilson, when you come to think of it, is the 14th Mr Wilson*2.
(参考訳:第14代伯爵という点について言えば,私が思うに,ウィルソン氏だって,よく考えてみれば,第14代ウィルソン氏でしょう。)

この逸話の真偽はともかく*3、アダムとイブほか若干の例外を除き,人間には両親があり,両親にも両親がある。万世一系とか,血筋とかいう概念を「純粋に」生物学的に考えてしまっては,訳が分からなくなってしまう。

*1:もっとも,その後,伯爵の爵位を返上し,下院の議席も獲得した。

*2:「John Kingdom, "Government and Politics in Britain: An Introduction," 3rd edition, p289.」による。1963年10月21日,首相就任直後のBBCのインタビューにおける発言とのことである。

*3:同種の逸話が各所に散見するのであるが、微妙にバージョンが異なる場合がある。例えば,英語版Wikipediaは,1964年の総選挙の選挙運動中の発言し,その文言も「・・・I suppose that Mr Wilson・・・」とする。

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