ミミズの俗信「小児陰腫」

.問題の所在

「ミミズに小便をかけると陰茎が腫れる。」という俗信がある*1

一般には,(1)「汚れた手で陰茎に触れてはならない。」という趣旨であるとか,(2)「ミミズを大切にしなければならない。」という趣旨であるなどと説明されており,最近では,(3)「ミミズが噴射する防御液によって亀頭が炎症する可能性」も議論されている*2文化人類学の立場から,(4)「『ミミズに乳をかけると乳が出なくなる。』とか『便所で唾をすると目がつぶれる。』など他のテクストとの関係のなかで捉えるべきである。」とする見解もある*3

しかし,これらの議論で看過されているのは,明の李時珍『本草綱目』(1578)において,「今,小児で陰の腫れるものの多くは,ミミズに吹かれたからである。」という記述があることである*4。この記述は,同じく明の王樵『(重修)鎮江府志』(1597)の同文の記載と並び*5,ミミズの俗信に関する最古に近い記述ではないかと思われるのである。

時珍曰 … 今小児陰腫多,以為此物所吹。

そして,日本における最古の記述である人見必大『本朝食鑑』(1697)が,明示的に『本草綱目』を参考にして「小児陰腫」を論じており*7,少し時代は下るが有名な喜多村信節『嬉遊笑覧』(1830)が,明示的に『鎮江府志』を引用して「小児陰腫」を論じていることからすれば*8,日本のミミズの俗信は,『本草綱目』や『(重修)鎮江府志』を通じて中国から渡来したものではないかと考えられる。

しかし,『本草綱目』や『重修鎮江府志』の伝えるミミズの所伝は,日本のミミズの俗信と見過ごすことのできない相違があり,一筋縄ではいかない。そこで,若干の検討を加えてみたい。

.小便をかける必要があるか。

最初に目に付く相違は,『本草綱目』や『(重脩)鎮江府志』が,「小便をかけること」を要件としていない点である。

中国の所伝としては,「小便をかけること」は不要であり*9,ミミズに「吹かれる」(「所吹」*10,「蚓呵」*11)ことが必要なのである。「吹かれる。」とは分かりにくい表現であるが,『本草綱目』において,ミミズが有毒であるとされていることからすれば*12,「毒気を吹かれる。」という趣旨ではないかと思われる*13

蚯蚓(和漢三才図会)

他方,日本のミミズの俗信において,「小便をかけること」は中核的な要素である。むしろ,「陰茎が腫れる。」という制裁の部分については,「罰が当たる。」「身体が悪くなる。」「ちんぼが曲がる。」「小便が出なくなる。」「淋病になる。」「目がつぶれる。」など,必ずしも「陰茎が腫れる。」に限らないのであって,単に「ミミズに小便をかけてはいけない。」と禁止するだけのものさえある*14

日本の古書を紐解くと,寺島良安『和漢三才図会』(1712)のように,単に『本草綱目』を転載し,「小便をかけること」を要件としないものもあるが*15,前掲『本朝食鑑』は,『本草綱目』を明示的に参照しながら,「小児がミミズに尿をかければ陰が腫れる。これはミミズが毒気を吹いて,人に復讐することを知っているようなものである。」として,わざわざ「小便をかけること」という要件を附加する。

小児尿于蚯蚓則陰腫是蚓吹毒気而如知仇人

(『本朝食鑑』巻12・蛇虫部・蚯蚓・集解*16

『本朝食鑑』が,いかなる根拠から「小児尿于蚯蚓」の部分を補ったのか,これを示唆する資料を見つけることはできなかったが,以下のような可能性が考えられる。

  1. 日本と中国には,別個独立の伝承があった。
  2. 中国の伝承が日本に伝わり,「小便をかけること」という要件が付加された。
  3. 日本の伝承が中国に伝わり,「小便をかけること」という要件が脱落した。

ちなみに,天野信景『塩尻拾遺』(1782)は,ミミズの小便をかけると陰が腫れると「俗に云」われていることについて,『本草綱目』の記事を引いた上,「かくあれば,もろこしよりいふ事也」と答えている*17。「もろこしより」の「より」の部分が,中国より伝わったという趣旨であるとすれば,上記2と同旨の見解ということになろう。

.腫れるのは陰茎なのか。

次に,見過ごしがちであるが重要な問題として,『本草綱目』や『(重脩)鎮江府志』が,「陰腫」という用語を用いているということがある*18。というのも,「陰腫」とは,「陰茎の腫れ」ではなく,陰嚢水腫など,「陰嚢の腫れ」を指すのが通常なのである*19

もちろん,『本草綱目』には,「男女陰腫」など,明らかに「陰嚢の腫れ」ではない「陰腫」の例もあるから*20,ミミズに吹かれたことによって生じる「陰腫」が,「陰嚢の腫れ」を指すと言い切ることはできない。しかし,これが「陰嚢の腫れ」であることを示す傍証がある。『本草綱目』には,ミミズに吹かれたことによって生じる「小児陰腫」とは別に,蟻に吹かれたことによって生じる「小児陰腫」の例が記載されている*21。この症例は,危亦林『世医得効方』(1337)を典拠とするものなのであるが,同書に遡って調べてみると,ここにいう「小児陰腫」とは,「陰嚢の腫れ」のことであることが分かる*22。「蟻による小児陰腫」と「ミミズによる小児陰腫」とが,同種の病気であるとすると,「ミミズによる小児陰腫」も,「陰嚢の腫れ」であると考えるのが自然であろう*23

他方,意外なことに,日本の古書を見ても,日本の俗信において,腫れるのが「陰茎」であることを明記していない場合が多い。例えば喜多村信節『嬉遊笑覧』(1830)は,「陰はるヽ時」という表現を用いており,「陰茎が腫れる。」とはしていない。そして,この「陰腫る。」という文句を,『鎮江府志』のいう「陰腫」という文句とストレートに結び付けてしまうのである。

小児陰腫 ○こゝにて小児の陰はるゝ時はみゝずを捕へて洗て放つ呪あり「鎮江府志」今小児陰腫,多以為此物所吹,以塩湯浸洗則愈。こゝの呪は何のみゝずにても取て洗ふに功験あるも奇ならずや

(『嬉遊笑覧』巻12・禽虫*24

前掲『塩尻拾遺』も,ミミズに小便をかけると「陰腫るゝ事」があるという俗信があるとした上,これを『本草綱目』の「小児陰被蚯蚓呵腫」という記載と関連付ける*25。やはり,「陰茎」という単語は出てこないのである。

これを整理すると,以下のような可能性が考えられる。

  1. 日本で知られていたのは,ミミズにより「陰茎が腫れる。」という現象であり,それを「陰腫る。」と表現した。そして,中国でいう「陰腫」にも,「陰茎が腫れる。」という意味があり,『嬉遊笑覧』や『塩尻』の記載に問題はない。
  2. 日本でも,ミミズにより「陰嚢が腫れる。」という現象が知られており,それを「陰腫る。」と表現した。したがって,中国でいう「陰腫」が,「陰嚢が腫れる。」という意味であったとしても,『嬉遊笑覧』や『塩尻』の記載には問題がない。
  3. 日本で知られていたのは,ミミズにより「陰茎が腫れる。」という現象であり,それを「陰腫る。」と表現した。しかし,中国でいう「陰腫」は,「陰嚢が腫れる。」という意味であるから,『嬉遊笑覧』や『塩尻』の記載は,誤解又は付会である。

ちなみに,曲亭馬琴『燕石雑志』(1811)は,「小児誤て蚯蚓に小便をしかくれば,忽その気に吹れて陰茎腫いたむものなり。」*26として,腫れるのが「陰茎」であることを明記する。同書は,明示的に『本草綱目』を引いたものではないが,「その気に吹れて」という部分が,『本草綱目』の「此物所吹」の影響を受けた記載であるとすれば,少なくも馬琴は,日本の俗信における「陰茎が腫れる。」という現象と『本草綱目』のいう「小児陰腫」とが同一の現象であるとみなしていたということになる。

.火吹竹と吹火筒

吹火筒(和漢三才図会)

以上のように,『本草綱目』や『(重脩)鎮江府志』のミミズの所伝と日本のミミズの俗信との間には,看過しがたい相違がある。しかし,それにもかかわらず,両者の間には,一定の影響関係があることを否定することはできない。

例えば,ミミズの俗信が,「火吹竹を逆さまにして吹き,一匹のミミズを洗い清めて放つとよい。」といった形で伝えられていることがある*27。「火吹竹」とは,竈の火を吹きおこすのに用いる竹筒のことであり,息を吹きかけて「腫れ」を冷やすという趣旨であろうが,それが「火吹竹」でなければならない理由は何か。それは,『本草綱目』に,そのように書かかれているからである。

小児陰,被蚯蚓呵腫,令婦人以筒吹其腫処,即消。〈時珍〉

(『本草綱目』服器部・巻38・吹火筒・主治*28

ミミズに吹かれて小児の陰が腫れた場合には,婦人が*29,患部を「吹火筒」で吹けば,忽ち治癒するというのであり,同書巻4にも同旨の記載がある*30。敢えて「吹火筒」「火吹竹」という特定の用具に言及する特異性に鑑みれば,『本草綱目』のミミズの所伝は,少なくとも「火吹竹」に言及する日本のミミズの俗信に対し,直接間接の影響を与えたと考えるべきであろう。

もちろん,「火吹竹」による治療法が『本草綱目』由来であったとしても,ミミズの俗信自体が『本草綱目』由来であると速断することはできない。「ミミズに小便をかけると陰茎が腫れる。」という俗信があり,これに対する対処法を探した結果,中国の書物に治療法が載っていたので,「ミミズに小便をかけると陰茎が腫れる。これを治すには…」と付加したという可能性があるからである。実際,前掲『塩尻拾遺』は,日本にミミズの俗信が存在することを前提に,「是を治する薬もありや」という問に対し,「本草綱目服器の部曰く」として,前記「吹火筒」「火吹竹」による治療法を解答している*31

.塩湯の使い方

また,『(重脩)鎮江府志』のミミズの所伝と日本のミミズの俗信との間に何らかの関係があることを示す別の事例として,ミミズの俗信について,「ミミズに塩をかけて流してやると治る。」といった対処法が伝えられている事実を示すことができる*32

普通に考えれば,この対処法は不可解である。「清水で洗う。」という伝承のように*33,小便で汚れたミミズを洗い清めてあげるというのであれば理解できる。しかし,「塩をかける。」というのはどうであろう。塩には消毒作用があると考えられていたのかもしれないが,小便をかけられた上,塩までかけられてしまっては,ミミズにとって,踏んだり蹴ったりでなかろうか。

この点,『本草綱目』には,冦宗奭『本草衍義』(1119)を引くなどして,ミミズの毒に中たった者について,「塩湯に浸すと癒えた。」という趣旨の記載がある*34。そして,『(重脩)鎮江府志』は,「小児の陰が腫れるのは,ミミズに吹かれたからであり,塩湯に浸して洗えば癒える」として,「小児陰腫」と「塩湯に浸す。」という治療法を結びつける。

今小児陰腫多以為此物所吹以盬湯浸洗則愈

(『重脩鎮江府志』巻30・物産志・穀属・蚯蚓*35

ここで注意しなければならないのは,「塩湯に浸す。」とは,患部を洗うのであって,ミミズを洗うのではないということである。患部を塩で洗うというのは,民間療法として自然な発想であり,日本においても,前掲『本朝食鑑』は,その趣旨で正しく理解している*36

ところが,前掲『嬉遊笑覧』になると,『鎮江府志』の上記記述を明示的に引用しながら,「こゝにて小児の陰はるゝ時はみゝずを捕へて洗て放つ呪あり」として,患部を洗うのではなく,ミミズを洗うと誤解してしまっているのである。「ミミズに塩をかけて流してやると治る。」という不可解な日本の伝承は,このようにして,『(重脩)鎮江府志』の記載を誤解して生じたものであると考えられる。このことは,古く南方熊楠が指摘していたことである*37

もちろん,「塩湯」による治療法が『(重脩)鎮江府志』由来であったとしても,ミミズの俗信自体が『(重脩)鎮江府志』由来であると速断することはできないのは,「火吹竹」の場合と同様である。

.総括

ミミズの俗信に関する最古の文献は,中国の『本草綱目』(1578)であり,日本におけるミミズの俗信の初出『本朝食鑑』(1697)は,明示的に『本草綱目』を参照している。このことからすれば,ミミズの俗信の起源は,中国の『本草綱目』にあるようにも思える。しかし,以上で見てきたように,『本草綱目』の伝えるミミズの所伝は,「小便をかけたからなのか,毒気を吹かれたからなのか。」,「陰茎が腫れるのか,陰嚢が腫れるのか。」など,日本のミミズの俗信と重要な相違がある。いわば「他人の空似」である可能性を否定できない。

日本の本草学に大きな影響を与えた『本草綱目』が,日本の民間伝承に影響を与えていることは十分に考えられるところであり,ミミズの俗信についても,「火吹竹」「塩湯」などの治療法が,『本草綱目』や『(重脩)鎮江府志』など中国の所伝に由来することは否定できない。しかし,単に「治療法」を調べるため,医学書としての『本草綱目』が参照されたにすぎないと考える方が自然のように思える。

そうすると,日本に『本草綱目』が伝わる以前,日本と中国には,「ミミズ」と「陰が腫れること」を関連づける伝承が,別個独立に存在したと考えるべきことになるが,そうであれば,これはこれで不思議で興味深いことである。

民間伝承には,科学的根拠との結びつきが強いものと弱いものがある。前者は,別個独立の伝承が世界に遍在していても不思議はない。例えば,『聖書』には,「夕焼けは晴,朝焼けは嵐」*38という伝承があったことが記載されている。この伝承が日本のことわざと別個独立であったとしても,何の不思議はない。北半球では,天気は西から変わるからである。しかし,「夜に爪を切ると親の死に目にあえない。」という日本の俗信が,世界のどこかに別個独立に存在したとすれば,それは非常に興味深いことである。

それでは,「ミミズに小便をかけると陰茎が腫れる。」という俗信に科学的根拠はあるのか。陰嚢水腫なのか,亀頭包皮炎なのか,それ以外なのか定かではないが,「小児の陰が腫れること」という科学的事実はあるのであろう。しかし,それがミミズと関連するかといえば,異論もあるが*39,現段階では疑問とせざるを得ない。

これ以上の考察は私の手に負いかねるが,ミミズの俗信について検討するのであれば,中国における伝承を視野に入れる必要があろう。本気で中国の文献を調べれば,『本草綱目』『(重脩)鎮江府志』以外にも,おそらく多数の関連文献が見つかるであろう。
(了)

*1:鈴木棠三『日本俗信辞典』(角川書店)・583頁。

*2:工房"もちゃむら"のホームページ』の「ミミズにオシッコをかけると・・・・というのは本当」というページが詳しい。ミミズが粘液を放出すること自体については,渡辺弘之『ミミズ 嫌われものの はたらきもの』(東海大学出版会)・4頁,ジェリー・ミニッチ著・川崎昌子訳『ミミズの博物誌』(現代書館)・148頁などでも言及されている。

*3:板橋作美『俗信の論理』(東京堂出版)・144頁。

*4:前掲『日本俗信辞典』・584頁は,『和漢三才図会』に言及するが,その典拠である『本草綱目』には触れていない。

*5:巻30・物産志・穀属・蚯蚓「今小児陰腫多以為此物所吹以盬湯浸洗則愈」(国立公文書館蔵)。なお,同書には正徳年間に出された旧版があり,仮に,旧版にも同様の記載があれば,『本草綱目』より古い記述ということになる。

*6:本草綱目(校点本)』(人民衛生出版社出版・初版)・下冊・2353頁。以下「校点本」と略し,簡体字は日本の通用体に改めた。

*7:巻12・蛇虫部・蚯蚓・発明「蚓素有毒以石灰水塩湯鮮之冦宗奭李時珍詳論之小児中蚓毒而陰腫者亦塩湯洗之即痊蚓泥亦佳。」(東京農業大学世田谷キャンパス所蔵本・第7冊,以下「東農大本」と略す。)。

*8:巻12・禽虫「小児陰腫 ○こゝにて小児の陰はるゝ時はみゝずを捕へて洗て放つ呪あり「鎮江府志」今小児陰腫,多以為此物所吹,以塩湯浸洗則愈。こゝの呪は何のみゝずにても取て洗ふに功験あるも奇ならずや」,或問附録「蚓笛 … 又小児の陰腫ることあるは「鎮江府志」に,今小児陰腫,多以為此物所吹,以塩湯浸洗則愈とあり」(『日本随筆大成』別巻10・新装版・267頁及び341頁)。以下「嬉遊笑覧大成本」と略す。)。

*9:仮に,これら中国の所伝が,ミミズの俗信の典拠であるとすると,ミミズの俗信について,「ミミズを大切にしなければならない。」という趣旨であると理解することは難しくなろう。

*10:虫部・巻42・蚯蚓・集解「時珍曰 … 今小児陰腫多,以為此物所吹」(校点本・下冊2353頁)。

*11:主治・巻4・諸虫傷・蚯蚓,蝸牛傷「吹火筒 蚓呵小児陰腫,吹之即消」(校点本・上冊352頁),服器部・巻38・吹火筒「小児陰,被蚯蚓呵腫,令婦人以筒吹其腫処,即消。〈時珍〉」(校点本・下冊2199頁。)。鈴木真海ら『新註校定國譯本草綱目』第2冊・494頁・頭注は,「蚓呵ハ蚯蚓ニカブレルコト。」としているが,「呵」とは,「息を吹きかけること」のはずである。

*12:冦宗奭『本草衍義』(1119)に基づき,「此物有毒」とする。「ミミズが人を咬むと,ハンセン病のような外見となり,眉毛やあごひげが全て落ちる。」(「経験方云,蚯蚓咬人,形如大風,眉鬚皆落。」)というのであるから,相当な猛毒である。ただし,別の部分では,「無毒。権曰,有小毒。」ともしている(虫部・巻42・蚯蚓。校点本・下冊2353頁)。なお,一般に,ミミズに毒があるとは知られていないようであるが(前掲『ミミズの博物誌』・147頁参照)、シマミミズの体腔液からは,脊椎動物に対する致死性の毒であるライセニンが単離されるとのことである(小林英司・梅田真郷「シマミミズの生物活性蛋白質,ライセニン」蛋白質核酸酵素46巻4号455頁、2001年3月)。

*13:前掲『本朝食鑑』は,『本草綱目』で「所吹」としている部分を「吹毒気」と敷衍している。同書も,ミミズが有毒であることは前提にしているが(「蚓素有毒」,「中蚓毒」),同時に「古謂,鹹寒,無毒」ともしている(巻12・蛇虫部・蚯蚓。東農大本・第7冊)。

*14:前掲『日本俗信辞典』583頁。

*15:巻54・湿生類・蚯蚓「今小児陰腫多以為此物所吹」(『和漢三才圖會〔上〕』・和漢三才圖會刊行委員会・599頁,以下「委員会本」と略する。)。また,例えば,飯室庄左衛門『虫譜図説』(1856)・巻10・湿生虫類2・蚯蚓にも,「今小児陰腫多以為此物所吹」(早大本)とある。

*16:東農大本・第7冊。

*17:芽垣内本・巻46「○或人曰く,小児俄かに陰腫るゝ事あり。俗に云ふ,みゝずに小便しかくればはるゝと。然りや。是を治する薬もありやと。予曰,本草綱目服器の部(三十八)曰く吹火筒ひふきだけの主治に云ふ。小児陰被蚯蚓呵腫,令婦人以筒吹其腫処即消。(時珍)かくあれば,もろこしよりいふ事也。」(『日本随筆大成』第3期・巻17・新装版・270頁。以下「本草綱目大成本」と略す。)。

*18:なお,『本草綱目』が,一貫して「小児陰腫」という言い方をするのに対し,日本のミミズの俗信は,明示的に「小児」と限定しない場合が多いという問題もある。しかし,ミミズの俗信は,子供に対する戒めとして言われる場合が多いと考えられ,地域によっては,明示的に「子供の陰茎が腫れて…」とする場合もあり(前掲『日本俗信辞典』・584頁),大きな問題ではないと考えて良いであろう。

*19:「【陰腫】陰嚢水腫。〔晉書,姚萇載記〕遂患陰腫,医刺之出血。」(諸橋轍次大漢和辞典』巻11・846頁)。また,例えば,『本草綱目』の「鸛」の項目には,「陰腫如鬥 … 左腫取左翅,右腫取右翅,双腫并取。」(禽部・巻48・鸛・翮翎・附方。校点本・下冊2598頁。)とあり,「陰腫」が「陰嚢の腫れ」であることが前提とされている。

*20:谷部・巻24・黒大豆・主治(校点本・下冊1501頁)。なお,逆に「陰嚢の腫れ」であることを明記する例として,土部・巻7・蚯蚓泥・主治「小児陰嚢忽虚熱腫痛」(校点本・上冊436頁)がある。

*21:虫部・巻41・蚱蝉・蝉脱・発明「(小児陰腫)多因坐地風襲,及虫蟻所吹。 … 〈危氏〉」(校点本・下冊2308頁。)。

*22:巻12・小方科「○陰腫 … [蝉退散]治陰嚢忽腫多坐地為風或虫蟻吹著。」(京大・富士川文庫)。

*23:ただし,『本草綱目』は,「ミミズによる小児陰腫」の治療法として,「令婦人以筒吹其腫処,即消。」(服器部・吹火筒)を挙げ,「蟻による小児陰腫」の治療法として,「用蝉脱半両,前水洗。仍服五苓散,即腫消痛止。」(虫部・蝉脱)を挙げるなど,この2つを区別しているようにもみえる(後点本・下冊2198頁,2309頁)。これに対し,前掲『和漢三才図会』は,「為蚯蚓及蟻所吹小児陰腫」と両者を一括して記載した上,治療法についても,「以火吹筒令婦人吹之,或用蝉脱煎水洗仍服五苓散即腫消痛止。」と併記して区別しない(委員会本・600頁)。

*24:嬉遊笑覧大成本267頁。

*25:芽垣内本・巻46「○或人曰く,小児俄かに陰腫るゝ事あり。俗に云ふ,みゝずに小便しかくればはるゝと。然りや。是を治する薬もありやと。予曰,本草綱目服器の部(三十八)曰く吹火筒ひふきだけの主治に云ふ。小児陰被蚯蚓呵腫,令婦人以筒吹其腫処即消。(時珍)」(本草綱目大成本・270頁)。

*26:巻5上・俗咒方・治蚯蚓吹陰茎(早大・燕石襍志・糾伍)。

*27:前掲『日本俗信辞典』・584頁。前掲『俗信の論理』・148頁。南方熊楠南方熊楠全集』・第2巻・323頁(南方随筆・紀州俗伝)。「我が家の古文書を解読」で紹介されている1857年頃の『萬家調法呪咀伝授嚢』にも「蚯蚓に小便し陰腫たるに用る方 常につかひ用ゆる火吹竹をもつて小便の出る穴をふくべし」とあるようである。

*28:校点本・下冊2199頁。

*29:ここで「婦人」が出てくる理由は,『本草綱目』が前近代医学であるからある。例えば,服器部・巻38・櫛篦によれば,「小便淋痛」の場合,男子は,女子の使用していた櫛を焼いて服し,女子は,男子の使用していた櫛を焼いて服すとされるのである(校点本・下冊2202頁。)。

*30:主治・巻4・諸虫傷・蚯蚓,蝸牛傷「吹火筒 蚓呵小児陰腫,吹之即消」(校点本・上冊352頁。)。

*31:芽垣内本・巻46「○或人曰く,小児俄かに陰腫るゝ事あり。俗に云ふ,みゝずに小便しかくればはるゝと。然りや。是を治する薬もありやと。予曰,本草綱目服器の部(三十八)曰く吹火筒ひふきだけの主治に云ふ。小児陰被蚯蚓呵腫,令婦人以筒吹其腫処即消。(時珍)かくあれば,もろこしよりいふ事也。かくあれば,もろこしよりいふ事也。これを消するに,火吹竹を以て,婦人にふかしめて試みるに験あり。万のまじなひも虚妄ならぬ事多かり。」(『日本随筆大成』第3期・巻17・新装版・270頁)。

*32:前掲『日本俗信辞典』584頁。

*33:前掲『日本俗信辞典』584頁。

*34:虫部・巻42・蚯蚓・集解「宗奭曰,此物有毒。崇寧末年,朧州兵士暑中跣足,為蚯蚓所中,遂不救。後数日。又有人被其毒。或教以塩湯浸之,並飲一杯。乃癒也。」(校点本・下冊2353頁)。なお,引用部分の直前には,「経験方云,蚯蚓咬人,形如大風,眉鬚皆落,惟以石灰水浸之良。昔浙江将軍張韶病此,毎夕蚯蚓鳴于体中,有僧教以塩湯浸之。数遍遂瘥。」とある。これによれば,「塩湯に浸す。」という療法のほか,「石灰水に浸す。」という療法もあったことになる。しかし,石部・巻11・食塩・附方は,同様の症状に対し,「蚯蚓咬毒 形如大風,眉鬢皆落,惟濃煎塩湯,浸身数編即愈。浙西軍将張韶病此,毎夕蚯蚓鳴于体,一僧用此方而安,蚓畏塩也。〈経験方〉」としており,「塩湯に浸す。」という療法に統一されてしまっている。

*35:国立公文書館蔵。

*36:巻12・蛇虫部・蚯蚓・発明「小児中蚓毒而陰腫者,亦塩湯洗之即痊,蚓泥亦佳。」(東農大本・第7冊。)

*37:南方熊楠「『郷土研究』第一巻第二号を読む」(南方熊楠全集・第2巻・595頁)。

*38:マタイによる福音書・第16章第2節,第3節「イエスはお答えになった。『あなたたちは、夕方には『夕焼けだから、晴れだ』と言い朝には『朝焼けで雲が低いから、今日は嵐だ』と言う。このように空模様を見分けることは知っているのに、時代のしるしは見ることができないのか。』」(新共同訳)。

*39:前掲「ミミズにオシッコをかけると・・・・というのは本当」参照。

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