絵画のタイトル
リンク先の記事は,「無題」の絵画の存在を不思議がるものである。同記事には,いろいろと経緯があるようなのであるが,その辺を無視してペダントリーに走ると,佐々木健一『タイトルの魔力』(中公新書)という新書がある。同書には疑問を感じる部分もあるが,同書の語る西洋絵画における「タイトル」の成立史は興味深い。
すなわち,同書第8章,第9章の示唆するところによれば,元来,西洋絵画においては,一般名詞としての「画題」(sujet)はあっても,固有名詞としての「タイトル」(titre)というものはなく,現在,当たり前に行われている「タイトル付け」は,18世紀以降,絵画が美術館に飾られるようになり,作品目録が作成されたり,作品にプレートが付けられるようになってから,徐々に確立してきた「慣行」にすぎないということになる。
作品とは作者のもの,創造物であるという意識と,それを不特定多数の観衆が鑑賞し,批評するという構図の成立が,固有名詞としての「タイトル」というものを成立させたということであろう。そして,例えば,フランスの美術館では,19世紀末までに,過去の(本来は無題であるはずの)作品に遡って,「タイトル」を付したプレートを作成したという。
現代美術における「無題」の絵画は,これら近代美術の「慣行」に対するアンチテーゼとしてとらえることができるのかもしれない。しかし,そのような理解は美術界の玄人の発想であり,上記の歴史的経緯が示すように,素人的にいえば,「無題」の絵画は何ら不思議なものではない。
タイトルの魔力 作品・人名・商品のなまえ学【電子書籍】[ 佐々木健一 ]
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