処分取消の訴えと裁決取消しの訴えの併合提起にかかる判例

原処分の取消しの訴えとこれを維持した裁決取消しの訴えとが併合提起された場合で,原処分取消しの訴えにおいて原処分は適法であるとして請求棄却判決がされたとき,裁決取消しを求める利益が存するかという論点について,その訴えの利益を否定した判例として,しばしば最判昭和37年12月16日民集16巻12号2557頁が援用されることがある*1

しかしながら,同判決は,原処分の取消請求を棄却する以上,「原判決が,上告人の審査決定の取消請求を棄却したのは結論において正当であ」ると判示したものであり,審査決定の取消しの訴えを不適法却下すべきとの判断を示したものではないから,前記の論点について,その訴えの利益を否定したものとして援用することはできないというべきである。

すなわち,同判決の事案は,原処分の取消請求とその審査決定の取消請求が併合提起された事案において,審査決定の取消事由として,理由附記不備の違法が主張されたものであるところ,原判決は,「審査決定の当否を審査する訴訟においては審査決定の結論が違法であるか否かに基いてこれを維持すべきか否かを決定すべきであって,審査決定に附してあった理由が不備であるということだけでは,審査決定を取り消すことは許され」ないと判示し,理由付記不備の違法自体は,そもそも審査決定の取消事由にならないとして,その取消請求を棄却すべきとしたものであった。

 …第一審被告芝税務署長のなした本件青色申告署提出の承認の取消処分の取消を求める第一審原告の本訴請求はすべて理由がないものとして棄却さえるべきものである。
 次に,第一審被告東京国税局長のなした第一審原告の審査請求の棄却決定の取消を求める第一審原告の請求につい判断する。第一審原告は,第一審被告東京国税局長のなした決定には,法の要求する理由の附記がないから,これを違法として取り消すべきものと主張する。しかして第一審被告東京国税局長のなした審査決定の通知書に,…と記載されていたことは,…審査決定の理由として十分ならざるものとせられることは免れ難いところである。しかしながら,右審査決定につきいたん抗告訴訟が提起せられるにおいては,裁判所は行政庁の附した理由の当否だけを審査するのではなく,当該審査決定が違法であるか否かにつき当該審査決定の基くところの法規全般について審査するを要するものというべきである。従って審査決定を受けた者も,審査請求のとき主張しなかった攻撃方法を訴訟手続において主張することを妨げないし,行政庁においてもまた当該審査決定に附した理由以外の理由を主張して,審査決定が維持さるべきものであると主張することを妨げないのである。それ故,審査決定の当否を審査する訴訟においては審査決定の結論が違法であるか否かに基いてこれを維持すべきか否かを決定すべきであって,審査決定に附してあった理由が不備であるということだけでは,審査決定を取り消すことは許されないものであるというべきである。しかして,第一審被告芝税務署長のなした本件青色申告書提出承認の取消処分に,何ら違法の点がないことは前段説示したとおりであるから,右取消処分に対する審査請求を棄却した第一審被告東京国税局長の決定は結局正当であって,これが取消を求める第一審原告の請求は理由がないものとして棄却さるべきものである。

(東京高判昭和36年1月21日・民集16巻12号2575頁以下の参照判例

これに対し,前記最高裁判決は,一般に,理由附記不備の違法がある審査決定は,その取消を免れないとして,原判決の理由付けを否定しつつ,本件の場合,原処分の取消請求が併合提起されており,原処分の違法でないことが当該判決により確定する以上,「理由附記の不備を理由に,本件審査決定を取り消すことは全く意味がないことというべきであろう」として,原判決の結論を是認したものである。「取り消すことは全く意味がない」という理由付けは,訴えの利益を否定するかのようであるが,その結論は,あくまでも原判決の棄却判断を是認したものである。

 …従つて、原判決のいうように、審査決定に対する不服の訴訟において、当事者が、審査請求に際しての主張事実、決定に際しての認定事実等に拘束されないという一事をもつて、理由附記に不備のある決定を取り消すことがゆるされないということはできない。換言すれば、理由にならないような理由を附記するに止まる決定は、審査決定手続に違法がある場合と同様に、判決による取消を免れないと解すべきである。
 しかし、本件の場合は、上告人は芝税務署長がした原処分の取消をも訴求しており、その理由がないことは、原判示のとおりであり、上告人も本件上告において取消処分の内容については何等の不服も述べていないのである。審査請求も、結局は、上告人に対する青色申告書提出承認の取消処分の取消を求める趣旨である以上、上述のような理由附記の不備を理由に、本件審査決定を取り消すことは全く意味がないことというべきであろう。けだし、本件決定を取り消し、東京国税局長が、あらためて理由を附記した決定をしても、すでに青色申告提出承認の原取消処分の違法でないことが本判決で確定している以上、決定の取消を求める訴においても、裁判所はこれと異なる判断をすることはできないからである。
 以上の理由により、原判決が、上告人の審査決定の取消請求を棄却したのは結論において正当であり、論旨は理由がないことに帰する。

最判昭和37年12月26日・民集16巻12号2557頁)

もっとも,実際のところ,同判決が,訴えの利益を否定したものではないとして,取消事由を制限したものなのか何なのか,その論理は必ずしも明確でない。調査官解説(民事篇・昭和37年度・479頁)も,同判決の説明には苦労しているようであり,「本判決は,原処分の取消と審査決定の取消とを同時に求めた場合で,審査決定の違法が理由附記の不備だけであるという場合の判決であって」(483頁)と射程を限った上,「本件の場合,事件の経緯から,…実質的な判断に基づくものかと思われる」(同頁)として,事例判断にすぎないかのような示唆もする。

この点,司法研修所(編)『改訂 行政事件訴訟の一般的問題に関する実務的研究』は,さすがに慎重であり,前記の論点について一通り論じた後,同判決を「なお書き」で紹介し,「請求を棄却した原判決を維持した」(201頁)と括弧書きして,棄却判断であることに注意を向け,さらに,「審査決定(裁決)の違法事由として理由付記の不備のみが主張された事例に限っての判断であり,原処分と裁決の取梢請求が併合された場合の一般的な先例と理解すべきではない」(同頁)として,前記調査官解説と同様の限定を附す。

*1:たとえば,室井力ら(編)『行政事件訴訟法国家賠償法〔第2版〕』(コンメンタール行政法?),168頁,南博方(編)『条解行政事件訴訟法〔初版〕』,434頁,園部逸夫=時岡泰(編)『行政争訟法』(裁判実務大系・第1巻),152頁。

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