平成25年度の簡裁有罪率について

平成25年度の司法統計年報が,裁判所のサイトに公開された。これを見ていたところ,簡裁の公判事件(通常第一審事件)*1の無罪員数が434人に上っていることに気が付いた(刑事22表[PDF])。これは統計上,下表のとおり,昨年度の62倍という異常値であり,簡裁の公判事件は絶対数が多くないこともあり,有罪率を90.4%にまで押し下げている。

簡易裁判所の通常第一審事件の終局総人員 終局区分別の推移*2
年度 総人員数 有罪*3 無罪 その他*4 有罪率
平成21年 10,715 10,193 17 505 95.1%
平成22年 9,876 9,386 10 480 95.0%
平成23年 9,142 8,686 10 446 95.0%
平成24年 8,340 7,927 7 406 95.0%
平成25年 8,109 7,330 434 345 90.4%

そこで調べてみるに,これら平成25年度の無罪事件の多くは,宇都宮東警察署が,「平成23年7月から平成24年5月にかけて,レーダー式速度測定装置を用いたスピード違反の摘発の際,その使用方法を誤り,約4200件に及ぶ誤測定を行った」ことに伴う再審無罪の事案のように思われる。

栃木県警宇都官東警察署は、平成23年7月から平成24年5月にかけて、レーダー式速度測定装置を用いたスピード違反の摘発の際、その使用方法を誤り、約4200件に及ぶ誤測定を行った。その結果、400件以上の誤った罰金刑等が科され、約3600件に及ぶ不当な行政処分をもたらすことになった。

これによって罰金刑等を科された者は約400人に及ぶとのことであるが,前記434人の無罪員数のうち,393人が宇都宮地裁管内の簡易裁判所の事件であり(刑事22表[PDF]*5,427人が道交法違反を理由とする事件に関するものであること(刑事36表[PDF]),また,この年の全簡易裁判所で終局した再審事件の人員数が431人(うち無罪426人)であること(刑事第12表[PDF]*6,その他の統計数値とも符合する(ただし,官報に公示されたものとしては,平成25年5月9日付け本紙6041号9頁に掲載された宇都宮簡易裁判所9件の判決しか見当たらないため,不明確な点は残る。)。

この大量誤測定事件自体は,それとして検討すべき問題であり,これまで知らなかったことは恥ずかしいのであるが,マクロに統計の推移をみる上でも,時を経ると,このような統計上の異常値の原因の探索に手間取ることも多いので,ここに記録することにする。

*1:司法統計年報(刑事事件篇)の概要[PDF]によれば,「通常第一審事件」とは,略式事件ではなく,通常の公判手続による事件を指す(概要2⑶)。

*2:すべて司法統計年報の平成21年度〜平成25年度・刑事事件篇・第22表による。

*3:ここでいう「有罪」には一部無罪を含むが,平成21年度1人,平成22年度1人,平成23年度2人,平成24年度0人,平成25年度4人なので,大勢に影響するほどではない。

*4:ここでいう「その他」は,免訴,公訴棄却,管轄違い,取下げ,移送その他を含む。

*5:その結果,平成25年度の宇都宮地裁管内の簡易裁判所における通常第一審事件の有罪率は37.5%になってしまっている。

*6:なお,平成25年度の宇都宮地裁管内の簡易裁判所における終局事件651件のうち,起訴・移送以外の事件は404件であり,その殆どは再審によるものと思われることなど(刑事22表[PDF])。

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