ドイツ連邦共和国基本法の改正経過🄗:索引

第1次改正:内乱罪に関する暫定規定の失効
1951.08.30 ドイツの敗戦によって,帝国刑法の内乱罪外患罪の規定は削除され,基本法143条に暫定規定として置かれるのみであった。しかし,東西対立の激化に伴い,主として共産主義勢力の伸長に対する対策として,これらの罰則規定を大幅に拡充する刑法の改正がなされることとなり,前記暫定規定は失効することとなった。
第2次改正:負担調整に関する連邦の権限の補充
1952.08.14 ドイツ敗戦後,旧東部領土等から追放されたドイツ人が西独地域に流入し,支援を求めていた。そして,この問題に戦後の通貨改革に伴う負担の不公平の是正を求める議論が加わり,これらの者を含め,国民の戦争被害を補償する「負担調整」が実施することとなり,これを連邦で統一して実施するため,連邦の権限が補充追加された。
第3次改正:連邦と州の租税配分の決定の先送り
1953.04.20 基本法は,制定時の107条において,連邦と州との間の税収の配分割合を1952年末までに連邦法によって定めることとし,この問題を先送りしていた。しかし,連邦と各州の利害対立が顕著な問題であるため,期限までに調整が付かず,暫定的な妥協として,当該連邦法の制定期限を1954年末まで延長する旨の本改正がなされた。
第4次改正:再軍備の合憲性の明確化
1954.03.26 朝鮮戦争の勃発は,欧州方面でも軍事緊張を高め,西独の主権回復と再軍備が課題となった。しかし,制定時の基本法には,連邦が防衛に関する権限(防衛高権)を有する旨の明文規定がなく,関係する条約について,左派の社会民主党(SPD)から違憲訴訟を提起されるなどもしたことから,その合憲性を明確にするための基本法改正が行われた。
第5次改正:連邦と州の租税配分の決定の再度の先送り
1954.12.25 第3次改正は,連邦と州との暫定的な妥協として,連邦と州の税収の配分割合を定める連邦法の制定期限を1954年末までに延長したが,その後も,連邦と州,富裕州と貧困州との調整が付かなかった。とはいえ,現状を改革する必要性があることに異論はなかったため,その期限を1955年末まで再延長する改正がなされた。
第6次改正:連邦と州の租税配分に関する改革
1955.12.23 連邦と州との租税配分の最終決定は,連邦と州との利害対立のため,第3次改正,第5次改正を経て先送りされていた。そのような中,連邦の与党CDUが,多くの州でも与党であったことから党内調整で妥協が成立し,所得税法人税をプールし,これを連邦と州とで分け合う「税源結合方式」を導入するなどの基本法改正が行われた。
第7次改正:防衛法制の整備
1956.03.19 連邦政府は,第4次改正で準備した再軍備を具体化するため,基本法の更なる改正をすることなく関係法令の整備を進めようとした。しかし,与党内部から,そのような重要事項は,与野党の広い合意の下,基本法の改正も含めて行うべきだとする議論が生じ,関係規定を基本法に追加等する本改正が,野党議員の一部の賛成も得て実現した。
第8次改正:市町村の固有財源の保障
1956.12.24 第6次改正は,連邦と州との間の財源の配分に一応の決着をつけたが,市町村には独自財源が与えられず,州から分与を受けるにすぎないものとされた。連邦の支持も得た市町村は,所得税の一部を独自財源とすることを要求したが,結局,対物税(土地税及び営業税)を市町村に移管することなどで妥協が成立し,本改正がなされた。
第9次改正:戦前の公的債務の一部破棄
1957.10.22 西独は,戦後賠償問題を法的に棚上げにする一方,二国間条約や国内法に基づき事実上の補償をしていた。しかし,財政上の問題もあり,1957年の一般戦争帰結法においては,戦前・戦中の債務等の一部について,同法に定める限度でのみ履行することとしたことから,そのような立法の基本法上の疑義を解消するため,本改正がなされた。
第10次改正:原子力に関する連邦の立法権限の追加
1959.12.23 1955年の主権回復によって,原子力開発に弾みが付くと,これを連邦が管理するため,原子力(核エネルギー)に対する連邦の権限を明記する必要が生じた。しかし,その軍事利用の可能性を残すべきかを巡って与野党の対立があり,差し当たって,平和利用という限定を付した上で,連邦の競合的立法権限を追加する妥協が成立した。
第11次改正:航空交通に関する連邦の行政権限の追加
1961.02.06 制定時の基本法は,航空交通に関し,占領当局に関する規制権限を留保していたこともあり,連邦に立法権限を付与しながら,これを執行する権限を与えていなかった。そのため,連邦は,その主権回復後も,州との行政協定という形で航空行政を実施せざるを得ず,このような状況を解消するため,本改正がなされた。
第12次改正:連邦特許裁判所の創設
1961.03.06 ドイツでは,伝統的に,特許庁の抗告部の決定に対し,司法裁判所に出訴することができなかった。この伝統は,同部を裁判機関とみることで正当化されていたが,1959年の連邦行政裁判所の判決が,この考え方を否定したことから,専門性を確保しつつ,司法的な救済を付与する機関として連邦特許裁判所を創設することとなり,本改正がなされた。
第13次改正:連邦の立法権限の及ぶ戦争墓地の範囲の拡大
1965.06.16 基本法は,伝統的な国家の義務として,「戦没者の墓地のための配慮」に関する事項を連邦の立法権限としていた。しかし,追悼の対象が,古典的な「戦没者」(=戦没兵士)から,戦争で死亡した市民,ナチスの迫害を受けた犠牲者などに拡大されていく中,連邦の立法権限として不十分となったため,この点の権限拡大を図る本改正がなされた
第14次改正:負担調整に関する州の負担の追認
1965.07.30 連邦は,1948年の通貨改革の際に交付した平衡請求権(特殊な公債)の利息の一部を州に分担させていた。しかし,1959年,連邦憲法裁判所が,この取り扱いを,連邦が「戦争の結果たる内外の負担」を負うとした基本法120条に反するとしたことから,混乱を避けるため,法改正まで,州の分担を遡及的に合憲とする本改正がなされた。
第15次改正:連邦の財政権限の強化
1967.06.08 制定時の基本法は,連邦と州の財政運営を独立のものと定め(109条),州は,租税収入こそ連邦との調整が必要であったものの,起債や支出の権限を独自に行使することができた。しかし,西独が初の本格的不況に陥る中,柔軟で統一した財政政策の実施が求められるようになり,州財政に対する連邦権限を強化する本改正がなされた。
第16次改正:最高裁判所の設置規定の削除
1967.06.18 制定時の基本法は,5個の法分野ごとに専門の裁判所を用意し,各分野の最上級審判例を統一する最高裁判所を置くことを予定していた。しかし,連邦憲法裁判所の機能との兼ね合いもあり,その設置は遅れていたところ,結局,常設の「最高裁判所」は設置せず,必要に応じ「合同法廷」を開催する方式を採ることとなり,そのための本改正がなされた。
第17次改正:緊急事態条項の整備
1968.06.24 西独がNATO体制内で再軍備を進めるなか,緊急事態条項(有事法制)の整備が政治日程に上った。左右の対立が厳しい分野であったが,旧占領諸国に留保された有事の権限を解消し,完全な主権を回復するためという名目もあり,現実路線に転換した左派SPDが政権に参画したことなどを受け(大連立),左右の二大政党間で妥協がなり,本改正が成立した。
第18次改正:連邦参議院の法案検討期間の延長
1968.11.15 連邦参議院は,政府提出法案を先に検討して態度決定する権限,連邦議会が可決した法案について,両院協議会の開催を求め,また,異議権を行使する権限などを有しているが,基本法は,これらの権限の行使に一定の機関制限を定めていた。本改正は,その議決期間が短すぎるとしてなされたテクニカルな改正であり,特段の反対もなく成立した。
第19次改正:連邦憲法裁判所に対する憲法異議の訴えの憲法事項化
1969.01.29基本法制定の際,連邦憲法裁判所の位置付けを巡って議論があったこともあり,従前,「憲法異議の訴え」は,法律上の制度として実施されていた。しかし,第17次改正が,緊急事態下における簡易な立法手続を導入したことを踏まえ,憲法異議が法改正のみで廃止され,権利救済手続が不十分となることを避けるため,基本法上の制度への格上げがなされた。
第20次改正:連邦と州との関係を中心とする予算制度改革
1969.05.12本改正は,連邦と州との関係を中心とする一括改革のうち,予算制度の改革に関する部分である。第15次改正の系譜を引き,国家全体の財政経済政策の運営という観点から州の予算管理に対する連邦の権限を強化した外,議会における予算審議に関する改革,会計検査院制度の強化などがなされた。
第21次改正:連邦と州との関係を中心とする財政制度改革
同上本改正は,連邦と州との関係を中心とする一括改革のうち,財政制度の改革に関する部分である。政権に参画したSPDの強い意志もあり,売上税を含む「基幹税大結合」(第6次改正参照)が実現した外,それまでグレーゾーンであった連邦による州の事務への関与について,「共同任務」という形で基本法の位置付けを与えられるなどした。
第22次改正:連邦制度の一括改革における連邦の立法権限の強化
同上本改正は,連邦制度の一括改革のうち,連邦の立法権限の拡充を中心とする雑多な部分である。国家的な統一の必要性が課題となっていた公務員の給与水準や大学・教育制度の分野などにつき,連邦の立法権限が強化されたが,環境規制に関するものなど,連邦参議院における州政府の抵抗によって実現しなかったものもある。
第23次改正:連邦政府の法案検討期間の設定
1969.07.17連邦参議院には,連邦政府提出法案の検討に当たって期間制限があるが,連邦政府には,連邦参議院の発議した法案の検討に当たって期間制限がなかった。本改正は,元来,第20次改正等に関する両院協議の際,連邦参議院側の対案の中で持ち出されものであるが,その際の「紳士協定」に基づき,第23次改正として成立した。
第24次改正:負担調整に関する州の追加負担
1969.07.28旧東部領土からの追放民等の損害を補償する「負担調整」は,早期の再統一が目指されていた東独地域からの避難民を対象としていなかった。しかし,東独との新たな関係を掲げるブラントが外相となった後,これらの避難民を「負担調整」の対象とすることとなり,その財源の一部を州に負担させることを可能とするため,本改正がなされた。
第25次改正:州の再編成に関する規定の改正
1969.08.19基本法29条は,占領軍によって決められた州割りを再編成することを連邦の義務とし,同条に基づく住民請願も成立していた。連邦は,これを東西統一後に実施すれば足りるとして問題を先延ばしにしていたが,連邦憲法裁判所が,これと異なる判断を示したため,この問題に結着を付ける前提として,住民請願の効力を弱めるなどする本改正がなされた。
第26次改正:政治犯罪に上訴制度を導入するための連邦と州の裁判制度の調整
1969.08.26第17次改正による緊急事態法制の導入とも呼応し,政治犯罪に関する刑法規定の整備が進められていたが,その審議において,一定の政治犯罪につき連邦通常裁判所による一審制とされ,上訴権が保障されないことが問題となった。そこで,州の高裁を第一審とする二審制を導入した上,連邦の検察官の関与を担保するため,連邦と州の権限関係を整理する本改正がなされた。
第27次改正:高等教育における共同任務の拡大,選挙年齢の引下げ
1969.08.26高等教育に対する需要の増加を背景に,連邦の高等教育への関与を拡大するため,共同任務の対象を「学術大学」以外の高等教育機関にも及ぼし,また,(第17次改正)による緊急事態法制の導入などに対する学生運動の高まりを背景に,これを正規の政治過程に取り込むため,選挙年齢を徴兵年齢と同じ18歳に引き下げるなどした。
第28次改正:州の公務員給与に対する連邦の立法権限の追加
1971.03.18連邦と州,州と州との公務員給与の格差については,第22次改正が,既に連邦の大綱的立法権を拡充することで一定の対処をしていた。しかし,これによっても公務員の所得控除を優遇するなどの代替手段が可能であり,他州との待遇競争に疲れた州側の意向もあったことから,その抜本的解決を図るため,州の公務員給与に関する事項等について,連邦の競合的立法を拡大する本改正がなされた。
第29次改正:動物保護に関する連邦の立法権限の追加
同上基本法上,連邦には動物保護に関する立法権限がなかったため,家畜の大量飼育・長距離輸送や動物実験の問題など,戦後に顕在化した問題に対し,連邦レベルでは,刑事立法,あるいは,経済規制,交通規制として,個別に対処せざるを得なかった。しかし,包括的な規制でないことによる法の穴などが問題となり,この点について,連邦の立法権限を補充する本改正がなされた。
第30次改正:環境規制に関する連邦の立法権限の拡充
1971.04.12制定時の基本法は,公害・環境規制に関する連邦の立法権限を大綱的立法権限としてしか付与しておらず,1970年代までの西独の経済発展による公害・環境規制に十分に対応できなくなっていた。そこで,州の同意を得られた限度で,大気汚染防止,騒音防止,廃棄物処理を連邦の競合的立法権限の対象として追加した。
第31次改正:治安対策に関する連邦の権限の拡充
1971.07.281970年代に入り,緊急事態法制の整備(第17次改正)の阻止に失敗した左派の一部が過激化し,テロ活動が活発化し,また,外国人労働者政治亡命者の流入も問題となっていた。そこで,外国人対策を中心に連邦憲法擁護庁の権限事項を拡大し,武器(銃器)の統一的規制をするため,これを連邦の競合的立法権限として追加した。
第32次改正:連邦議会の請願委員会の必置機関化
1975.07.15連邦議会における請願処理は,その処理に長期間を要するとして,それに代わるオンブズマン制度の導入を含め,長らく改革が議論されていた。そこで,連邦議会の請願委員会に基本法上の根拠を与え,併せて同委員会の権限を強化する法律を制定することで,オンブズマン制度の導入ではなく,請願制度の改革による解決が図られた。
第33次改正:州の再編成の任意化,連邦議会議員の任期の調整
1976.08.23基本法29条は,占領軍に決められた州割りの再編成を義務的なものとしていたが,これが実施されないまま20年以上が経過し,その州割りも定着していたため,これを任意的なものとするなどの改正がなされた。また,併せて,連邦議会の任期満了と選挙時期の間に生じる事実上の「議会の空白期」を解消するための技術的な改正がなされた。
第34次改正:爆発物に関する連邦の立法権限の追加
同上第31次改正でもみたとおり,1970年代は,緊急事態法制の整備(第17次改正)の阻止に失敗した左派の一部が過激化し,テロ対策が課題となっていた。本改正は,第31次改正で武器(銃器)規制を連邦の立法事項としたのと同じ趣旨で,爆発物(火薬類)の規制を連邦の立法事項とすることで,その統一的規制を可能としたものである。
第35次改正:政党の資産公開義務の拡大
1983.12.21制定時の基本法は,政党に収入の「出所」を公開すべきことを規定していたが,フリック事件など,公益団体などを通じた迂回献金がスキャンダルとなった。そこで,政党財政の改革が進められ,収入の「使途」及び「資産」についても公開が義務付けられることとなったが,政党活動の自由の原則との調整のため,これを基本法上の義務として追加規定した。
第36次改正:東西再統一による旧東独諸州の加入
1990.09.23東独との統一に伴う基本法改正である。制定時の基本法146条は,東西再統一に当たっては,「新憲法」を制定することを予定していたが,その実施には,政治的にも,技術的にも困難が多く,本改正前の基本法23条に基づく新たな州の「加入」という方式が採用されたため,これに伴う基本法の改正は技術的なものに留まった。
第37次改正:連邦の航空行政の私法組織化
1992.07.14第11次改正以来,連邦政府が実施してきた航空管制業務は,交通量の増大に対応できていないなどの問題が指摘され,組織を私法上の有限会社の形態とする改革が行われることとなった。しかし,連邦大統領が,連邦の「固有行政」を私法上の組織に委任することの違憲性を指摘したため,これを合憲とするための改正がなされた。
第38次改正:マーストリヒト条約批准のための改正
1992.12.21欧州連合を設立するマーストリヒト条約批准のための改正である。基本法は,その制定時から,国家主権を国際機関に委譲するための規定を置いていたが,同条約に関しては,州の権限が国際機関に委譲されることなどが問題となり,欧州連合との関係において,州の関与を強めるための手当などがなされた。
第39次改正:難民の庇護権の制限
1992.12.21基本法は,政治的亡命者の無条件受入れを規定していたが(庇護権条項),ベルリンの壁の崩壊後,経済難民が増加し,移民排斥運動が政治・社会問題化していた上,シェンゲン協定との調整の必要もあった。そこで,欧州共同体諸国のような「安全な第三国」を経て来独した者について,その庇護申請を制限するなどの改正がなされた。
第40次改正:連邦鉄道の私法組織化
1993.12.20モータリゼーションに伴う連邦鉄道の経営悪化,旧東独の国有鉄道の処理問題,欧州統合による市場経済化に対応するため,連邦鉄道の民営化が課題となった。しかし,基本法上,連邦鉄道は,連邦の「固有行政」として実施されることが規定されていたため,これを株式会社などの私法組織によって遂行することを可能とする本改正が実施された。
第41次改正:連邦郵便の私法組織化
1994.08.30欧州統合など,市場経済化・自由化の流れの中,連邦鉄道の民営化に引き続き(第40次改正),連邦郵便の民営化が課題となった。しかし,基本法上,郵便事業(郵便,貯金,通信)は,連邦の「固有行政」として実施されることが規定されていたため,これを株式会社などの私法組織によって遂行することなどを可能とする本改正が実施された。
第42次改正:東西統一を契機とする憲法秩序の再編
1994.10.27ドイツ統一に伴う第36次改正は,技術的な改正に留められたことから,統一条約5条に基づき,実質的な憲法秩序の見直しとして,本改正が実施された。保守派の抵抗が強く,旧西独の基本法構造を大きく変化させるには至らなかったが,男女平等促進規定や環境保護規定の導入など,注目すべき規定が導入された。
第43次改正:児童手当制度の再設計に伴う州の財源保障
1995.11.03連邦憲法裁判所の1992年9月25日決定を受け,児童手当制度が再設計され,所得税の還付として位置付けられることとなった。しかし,従前,児童手当は連邦の負担であったところ,共同税たる所得税の還付の増大は州の歳入減をもたらすものであったことから,これを同じく共同税たる売上税の配分で補填するため,本改正がなされた。
第44次改正:営業資本税の廃止に伴う市町村の財源保障
1997.10.20市町村の独自財源であった営業資本税は,収益に無関係に賦課されることから経済界の評判が悪く,ドイツ経済の低迷を契機として廃止されることになった。本改正は,これを市町村側に納得させるため,その補填としての売上税の分配の基準,残る独自財源である営業収益税の存続を基本法に明記するためのためのものである。
第45次改正:住居内の会話を傍受する捜査の許容
1998.03.26組織犯罪対策の必要性の高まり,欧州統合の反動としてのドイツ国民の保守化等を背景に,犯罪捜査のため,電話など外部との通信の傍受のみならず,住居内の会話の傍受を可能とする法整備がされることとなった。しかし,これは基本法の住居の不可侵(13条)の規定との関係で問題があったことから,その合憲性を担保する本改正がなされた。
第46次改正:連邦議会の選挙時期の調整
1998.07.16第33次改正の結果,連邦議会選挙の時期は,解散による場合を除き,徐々に繰り上がる運用がされており,次々回の選挙には,投票日が夏季休暇と重なることが予想された。折しも投票率の低下が問題となっていたところ,投票率の低下に拍車が掛かることを避けるため,選挙の時期を夏季休暇後に固定するための改正がされた。
第47次改正:自国民の国外不引渡し原則の修正
2000.11.29制定時の基本法は,第二次大戦中の戦争犯罪を追及されることに対する懸念から,ドイツ人の国外引渡しを禁じたが,その後の国際的な刑事司法協力の進展との間で離隔を生じていた。そこで,国際刑事裁判所を創設するローマ規程の批准を契機として,本改正において,欧州連合諸国や国際法廷との関係で,その例外規定が設けられた。
第48次改正:女性兵士の武器使用任務の任意化
2000.12.19基本法は,再軍備のための第7次改正以来,女性が,武器を使用する任務に従事することを禁じており,実際にも,女性の軍務は,衛生及び軍楽に限られていた。しかし,欧州裁判所が,このような状況を男女の雇用に関する平等を定める欧州共同体指令に反するとしたため,武器使用任務の「義務付け」を禁じるにすぎないことを明確化する改正がされた。
第49次改正:連邦の中級租税官庁の設置の任意化
2001.11.26基本法は,税務行政について,連邦と州が,中級レベルの官庁を設置するべきことを前提とする規定を置いており,実際,全国に上級財務局が設置されていた。本改正は,その設置を任意化し,地域の実情に応じ,税務行政を簡素化することを可能としたものであり,連邦と州の行財政改革の一環に位置付けられる。
第50次改正:動物保護の憲法事項化
2002.07.26基本法は,税務行政について,連邦と州が,中級レベルの官庁を設置するべきことを前提とする規定を置いており,実際,全国に上級財務局が設第29次改正は,動物保護を連邦の立法事項に追加したが,さらに進んで,動物に基本法上の保護を与えることには保守派の反対論が強かった。しかし,連邦憲法裁判所が,イスラム教徒の「儀礼畜殺」を基本法上の権利に位置付け,動物保護法の畜殺制限に優先させる判断を示したところ,これに対する反発もあって,本改正が実現した。
第51次改正:ローマ規程批准に伴う連邦と州の司法制度の調整
同上既に批准していたローマ規程(第47次改正参照)が発効することになったため,その国内法整備の一環として,「国際刑法典」が制定されることとなった。本改正は,その対象となる犯罪の訴追を連邦の責任に残しつつ,州高等裁判所を第一審とするため,第26次改正と同様の方法で,連邦と州の司法制度を調整したものである。
第52次改正:第1次連邦制改革(連邦と州の立法権限)
2006.08.28ドイツの連邦制度は,州を原則的な国家主体としながら,概ね連邦の権限を強化する方向で改正が積み重なってきたが,連邦と州の双方に不満があり,欧州連合との関係も整理する必要が生じていた。本改正は,連邦と州の立法権限を再編し,「欧州適合能力」を高めるものであり,基本法施行以来の大改正であるとされる。
第53次改正:リスボン条約批准に伴う議会権限の強化
2008.10.082007年12月13日に署名されたリスボン条約は,各国の国内議会が,議会の名で,欧州連合裁判所に対し,欧州連合の立法が「補完性の原則」に反するとして提訴する権限を付与した。本改正は,同条約批准のため,連邦議会(議員の4分の1の申立て)及び連邦参議院が,これらの権限を行使する根拠規定を追加したものである。
第54次改正:温暖化対策に伴う自動車税の連邦税化
2009.03.19ドイツは,欧州委員会における議論を受け,地球温暖化対策として,自動車税課税標準二酸化炭素排出量を組み込むこととした。しかし,自動車税は州税であり,このような政策実現の手段として活用するには不便があったため,州の歳入を補填する代償措置と引き換えに,これを連邦税とする本改正が実施された。
第55次改正:情報機関に対する議会統制委員会の必置機関化
2009.07.172001年のアメリ同時多発テロなどを受け,秘密情報機関の重要性が高まる一方,その民主的統制が問題となっていた。2009年,イラク戦争に対する連邦情報局の協力が報道されて問題となると,秘密情報機関の改革が進められ,連邦議会に置かれてた統制委員会による監視を強化するため,当該委員会の設置に憲法上の根拠を与える本改正に至った。
第56次改正:欧州単一空域に対応するための連邦の行政権限の変更
2009.07.29欧州連合によって採択された欧州単一空域プロジェクト(SES)を実施し,さらに深化させる上で,基本法において,航空行政権が「連邦の固有行政」とされていることが問題となった。本改正は,この問題を解消するため,航空行政権を「外国の航空安全確保組織を通じ」て行使することが可能な「連邦の行政」と位置付け直したものである。
第57次改正:第2次連邦制改革(連邦と州の財政規律)
同上第1次連邦制改革(第52次改正)は,財政関係に関する改革を積み残しており,その点の検討が続けられていた。本改正は,その間に生じたリーマン・ショックを契機とする財政危機を踏まえ,財政均衡を原則とする連邦と州の財政規律を強化したものであり,併せて,公共の情報(IT)技術に関する連邦と州の協力などの規定も新設された。
第58次改正:求職者基礎保障における連邦と自治体の協働の合憲化
2010.07.21いわゆるハルツ改革の一環として,求職者基礎保障制度が導入された。ところが,その事務が連邦と自治体の「協働機関」によって実施されることとなったため,連邦の主導を嫌う自治体側が違憲訴訟を提起し,これが連邦と自治体の混合行政であり,基本法に違反するとされてしまったため,その限度で混合行政を許す本改正がなされた。
第59次改正:政党資格の否認に対する事前不服申立制度の導入
2012.07.11小政党が連邦議会選挙に参加するには,政党資格の確認手続を経る必要があるが,これに対する不服申立ては,従前,選挙終了後の「選挙審査」による必要があった。しかし,この点の問題が国際人権機関からも指摘されるようになったことなどから,連邦憲法裁判所に直ちに出訴し得るようにすべく,その権限を追加する本改正がなされた。
第60次改正:高等教育における共同任務の再拡大
2014.12.23 2006年の第52次改正(第1次連邦制度改革)の結果,高等教育の権限の大部分は州に取り戻され,連邦は大学の建設や財政からは原則として手を引くこととなった。しかし,ドイツの学術研究の底上げを求める揺り戻しがあり,共同任務の範囲を拡大し,連邦が大学に恒常的な財政援助することを可能とする本改正がなされた。

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