「見せ消ち」と「見え消し」

見せ消ち⁑1

お役所では「見え消し」という単語を使う。ところが、古文書・古典籍などでは「見せ消ち」という言い方をする*1。これは「見す」+「消つ」からなる単語であろうから、これを現代語訳したとしても「見せる」+「消す」の「見せ消し」になるはずである*2。両者の関係は、どうなっているのだろう。

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見え消し⁑2

岩波古語大辞典によると「見せ消ち」という単語は、正徹本徒然草に見えるとのことである。つまり、この単語は既に室町時代にあったことになる*3。そうだとすると、やはり「見せ消ち」から「見え消し」が生じたと考えるのが自然であろう。

では、なぜ「見せ消し(ち)」ではなく「見え消し」なのか。調べてみたのだが回答の手がかりは見いだせなかった。「見せ消ち」は「見消」と書くのが伝統的であるのだが、もしかしたら、これを読み間違えた誤用*4が定着してしまったのかも知れない。もっとも、これを裏付ける史料は何ら存在しない。

明治初期の公文書の類を眺めていても、例えば、各省提出の法令案が法制局に回された場合などに、朱筆の添削が入れられている箇所を見出すことができる。これを当時の法制局の官僚は「見せ消ち」と呼んだのだろうか、「見え消し」と呼んだのだろうか。

*1:ワープロなどでも、取消線の類を、そう呼ぶ場合があるようである。

*2:実際、「見せ消し」という言い方も少数ながら存在する。

*3:もちろん、「見せ消し」という行為自体は、より古くから存在する。

*4:「見せ消ち」は多くの国語辞典が載せるが、「見え消し」を載せた国語辞典を私は知らない。

⁑1:伊藤善韶『古義抄翼』第5巻(享和元年朱書,国立国会図書館・請求番号863-187・コマ番号23).

⁑2:外務省職制章程修正案(明治9年4月公文録,国立公文書館・公01965100・件名番号11).

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