「見せ消ち」と「見え消し」
お役所では「見え消し」という単語を使う。ところが、古文書・古典籍などでは「見せ消ち」という言い方をする*1。これは「見す」+「消つ」からなる単語であろうから、これを現代語訳したとしても「見せる」+「消す」の「見せ消し」になるはずである*2。両者の関係は、どうなっているのだろう。
岩波古語大辞典によると「見せ消ち」という単語は、正徹本徒然草に見えるとのことである。つまり、この単語は既に室町時代にあったことになる*3。そうだとすると、やはり「見せ消ち」から「見え消し」が生じたと考えるのが自然であろう。
では、なぜ「見せ消し(ち)」ではなく「見え消し」なのか。調べてみたのだが回答の手がかりは見いだせなかった。「見せ消ち」は「見消」と書くのが伝統的であるのだが、もしかしたら、これを読み間違えた誤用*4が定着してしまったのかも知れない。もっとも、これを裏付ける史料は何ら存在しない。
明治初期の公文書の類を眺めていても、例えば、各省提出の法令案が法制局に回された場合などに、朱筆の添削が入れられている箇所を見出すことができる。これを当時の法制局の官僚は「見せ消ち」と呼んだのだろうか、「見え消し」と呼んだのだろうか。