ドイツ連邦共和国基本法の改正経過🄕:第47次〜第51次 ('98-'05)

コール政権は16年の長期に及んだが,経済状況も芳しくないまま,1998年,ゲアハルト・シュレーダーが率いる社会民主党に破れる*1シュレーダーは,連邦レベルでは初めて政権入りする「緑の党・同盟90」と連立を組み,コール政権下で縮小された福祉政策の見直しを進めたが,結局,福祉削減政策に回帰することになる*2

基本法改正という面では,シュレーダー政権の約7年の間に5回の小改正があったのみである。その中では,「動物」の保護義務を追加した第50次改正は,「人権」を中心とする近代憲法の体系に見直しを迫り*3,また,現実にも,イスラム教徒の信仰活動の自由との間で緊張関係を有していた点で,一見の印象以上に注目する価値があるかもしれない*4

47. 自国民の国外不引渡し原則の修正

第47次改正 2000.11.29

制定時の基本法は,第二次大戦中の戦争犯罪を追及されることに対する懸念から,ドイツ人の国外引渡しを禁じたが,その後の国際的な刑事司法協力の進展との間で離隔を生じていた。そこで,国際刑事裁判所を創設するローマ規程の批准を契機として,本改正において,欧州連合諸国や国際法廷との関係で,その例外規定が設けられた。*5

解説

制定時の基本法16条2項は,ドイツ人を(犯罪の被疑者として)外国に引き渡すことを禁じていた。このような規定自体は,第1次大戦後のワイマール憲法112条3項にもあったものであるが,第2次大戦中のホロコーストなどへの加担を理由に,外国からドイツ国民の引渡しを求められることへの懸念ががあったからとされる*6

もっとも,実際には,1957年の欧州犯罪人引渡条約を始め,「裁量的」な引渡しを認める条約は締結されていたのであるが,基本法国際法優位主義を根拠として正当化されてきた(25条)*7。しかし,国際社会においては,徐々に,自国民であることを引渡しの拒否事由とすることを禁止する意見が強くなり,基本法との離隔が大きくなっていた*8

本改正は,このような流れを受け,「国際刑事裁判所(ICC)を設立するためのローマ国際刑事裁判所規程」(ローマ規程)を批准するため,基本法16条2項2文として,自国民の国外不引渡原則の明確な例外を追加したものである*9。ローマ規程が自国民であることを理由とする引渡拒否を禁じたため*10,さすがに基本法との調整を要したわけである*11

ただし,本改正は,ICCの場合に限らず,「法治国家の諸原則が保たれている限度」において,広く「欧州連合加盟国または国際法廷」に関する場合に例外を認めた*12。そのため,これによって,国連安保理決議に基づく旧ユーゴスラビアルワンダ国際法廷,欧州連合諸国間の司法協力に十全に対応することが可能となった*13

48. 女性兵士の武器使用任務の任意化

第48次改正 2000.12.19

基本法は,再軍備のための第7次改正以来,女性が,武器を使用する任務に従事することを禁じており,実際にも,女性の軍務は,衛生及び軍楽に限られていた。しかし,欧州裁判所が,このような状況を男女の雇用に関する平等を定める欧州共同体指令に反するとしたため,武器使用任務の「義務付け」を禁じるにすぎないことを明確化する改正がされた。*14

解説

基本法は,再軍備のための第7次改正以来,女性が,武器を使用する任務に従事することを禁じる規定を置いていた*15。軍隊と大学が男性の最後の牙城であるといわれていた所以であり,これを受けた軍人法,軍事職処遇規則(軍人ラウフバーン規則)は,女性の職員については,衛生及び軍楽の役務にのみ用いることができると定めていた*16

この規定が問題となったのは,1996年,連邦軍に志願した女性が,電気関係の修理業務を希望したところ,前記軍人法等の制限を理由に却下されたことから,当該制限が,雇用における男女平等を定めた欧州共同体指令に反するとして行政訴訟を提起し,その論点回付を受けた欧州裁判所が,同指令違反を指摘する先決的判断をしたことを契機とする*17

ドイツ政府は,欧州裁判所の判断がなされた以上,当該判断に沿って法令を改正すべきことになるが,そもそも裁判で問題となったのは,女性兵士の任務を衛生及び軍楽の役務に限定する軍人法,軍事職処遇規則といった下位法令であって,女性兵士が武器使用任務に従事することを禁じる基本法の前記規定ではなかった*18

そして,基本法の当該規定は,非常事態における女性の徴用の限界を定めたものであり,問題となったような志願による女性兵士の任務には適用されないという解釈を前提に,欧州裁判所の判断との関係では,軍人法,軍事職処遇規則を改正をすれば足り,基本法の改正は不要であるとの見解も強く主張された*19

結局,基本法を改正し,女性が,武器使用の任務に「従事」(leisten)してはならないとする従前の文言を改め,これを「義務付け」(verpflichten)られてはならないとする本改正が成立する*20。本正によれなければ欧州共同体指令との整合性を図れないという見解が勝ったわけであるが,他の改正でもあるように,「念のため」の改正であるという理解もあろう*21

49. 連邦の中級租税官庁の設置の任意化

第49次改正 2001.11.26

基本法は,税務行政について,連邦と州が,中級レベルの官庁を設置するべきことを前提とする規定を置いており,実際,全国に上級財務局が設置されていた。本改正は,その設置を任意化し,地域の実情に応じ,税務行政を簡素化することを可能としたものであり,連邦と州の行財政改革の一環に位置付けられる。

解説

ドイツでは,連邦に立法権がある事項であっても,その執行は州の権限に属するのが原則である(基本法83条,84条)。連邦は,連邦の立法事項につき,上級官庁を設置することはできるが(同法87条3項前段),その下部機関は,外交事務や連邦水路行政事務など例外的な事項についてのみ組織することができる(同条1項前段)。

連邦財政行政(税務行政)は,その例外の一であり,連邦は,例えば,連邦税たる関税の徴収につき,下部機関として税関を擁することができる(基本法87条1項前段,108条1項前段)。ただし,所得税など,州との共同税については,連邦からの委託行政として,州が執行することとなるので,いわゆる税務署は州の機関である(同条3項)。

そして,税務行政に関しては,基本法上,さらに特殊なルールがあり,連邦と州は,税務行政に関する中級官庁を設置し,その長の任命について,相手方の同意を得ることとされた(本改正前の基本法108条1項後段,2項後段)。これは現実には,連邦と州に共通の機関たる上級財務局(Oberfinanzdirektion)として具体化されていた。

本改正は,この点に関し,従前の基本法が,この中級財務官庁の設置を当然の前提としていたのに対し,その設置を任意化することで(本改正後の基本法108条1項後段,2項後段),地域の実情に応じ,上級財務局の統廃合を可能としたものである*22。連邦及び州の行財政改革の一環であり,税務行政の簡素化としての意義を有する*23

50. 動物保護の憲法事項化

第50次改正 2002.07.26

第29次改正は,動物保護を連邦の立法事項に追加したが,さらに進んで,動物に基本法上の保護を与えることには保守派の反対論が強かった。しかし,連邦憲法裁判所が,イスラム教徒の「儀礼畜殺」を基本法上の権利に位置付け,動物保護法の畜殺制限に優先させる判断を示したところ,これに対する反発もあって,本改正が実現した。

解説

動物保護に関する議論は,第29次改正によって連邦の立法事項が補充されたことで,一定の解決が与えられた。しかし,これは立法権限の分配の問題にすぎないから,国家に動物保護を義務付けるものでないことはもちろん,動物に対する法律上の保護と人権に対する基本法上の尊重が相克する場合,後者が優先せざるを得ないという限界があった*24

この問題の典型例は,新薬開発のための動物実験であり,その外,畜産技術の「人道的」な規制という概念矛盾のような課題もある。プラクティカルには,「公共の福祉」の線引き問題にすぎないが,根本的には,近代の人権思想の前提にある「人間中心主義」が問い直されるものであり,法哲学上の深淵な議論に至る*25

動物保護を基本法に規定することは,第42次改正の際も議論され*26,1997年以降,連邦議会の各党及び連邦参議院によって,続々と改正案が提出されていた*27。しかし,キリスト教民主・社会同盟が,第42次改正で導入された環境保護の義務(本改正前の基本法20a条)で対応可能であるとして反対したため,可決には至らなかった*28

本改正は,その後,キリスト教民主・社会同盟が方針を転換したことによって実現するのであるが,ここで特筆されるべきは,その転機が*29,動物保護法上の屠畜方法の制限に対し,「儀礼畜殺」に対するイスラム教徒の人格権(基本法2条1項)を優先させた連邦憲法裁判所の2002年1月15日判決(BVerfGE 104, 337)にあったことである*30

すなわち,本改正によって,人権の尊重に劣後しない価値として,動物の保護に基本法上の地位が与えられることになるのであるが*31,その背景には,純粋に動物保護を深化させたいという「善意」のみならず,イスラム教徒に対する「悪意」に基づき,連邦憲法裁判所の判決を覆したいという民意があったともみることができるのである*32

51. ローマ規程批准に伴う連邦と州の司法制度の調整

第51次改正 2002.07.26

既に批准していたローマ規程(第47次改正参照)が発効することになったため,その国内法整備の一環として,「国際刑法典」が制定されることとなった。本改正は,その対象となる犯罪の訴追を連邦の責任に残しつつ,州高等裁判所を第一審とするため,第26次改正と同様の方法で,連邦と州の司法制度を調整したものである。

解説

第47次改正は,ドイツが,「国際刑事裁判所を設立するためのローマ国際刑事裁判所規程」(ローマ規程)を批准するためのものであったが*33,2002年4月,ボスニアなどの諸国が同規程を批准したことにより,同年7月1日,同規程が発効し(規程126条1項*34),常設の国際法廷である国際刑事裁判所が設立されることとなった*35

国際刑事裁判所は,ジェノサイドなど,個人の国際犯罪に裁判権を有しするものであり,そうであるからこそ,第47次改正によって,自国民の国外不引渡しの原則に例外が設けられたのであるが,実際には,その権限行使は,関係国が,当該個人を自ら訴追する意思も能力も有しない場合に限られるという補充性(補完性)の原則がとられている*36

そのため,締結国は,国内法において,対象犯罪を適切に訴追するための立法措置をとることが期待されており*37,ドイツは,2002年6月19日,新たに「国際刑法典」を制定し,ドイツ国民以外の者がドイツ国外でした行為を含め,ジェノサイドの罪,人道に対する罪,戦争犯罪を国内法違反として処罰できることとした*38

本改正は,これに伴う連邦と州の権限の調整である。すなわち,これらの犯罪は,その性質上,連邦が責任をもって訴追すべきであるが,連邦は,基本法上,最上級審たる連邦裁判所における手続にしか関与できないのが原則であるため(第26次改正参照),本改正によって,その例外たる基本法96条5項の適用範囲を明示拡大したのである*39
続く

*1:有権者は,支持政党に関係なく,「コール政権は長い」「変化が必要だ」と感じていたといわれる(小澤幸夫「ドイツ統一とヨーロッパ統合:コール政権の十六年」,国際経営フォーラム10号29頁,1998年,40頁)。

*2:福澤直樹「第二次大戦後ドイツ連邦共和国の福祉制度と経済秩序」(季刊経済理論 49巻4号43頁,2013年1月20日,45頁,50頁〜51頁。

*3:問題状況は,第42次改正による「環境」の保護義務との関係と同様であるが(浅川千尋『国家目標規定と社会権』,2008年8月,119頁以下参照),「環境」という抽象的な概念より,「動物」の方が「擬人的」であるため,その点が明確になろう。

*4:キリスト教民主・社会同盟が,本改正に賛成するようになった契機は,「麻酔をしない屠畜」に対する規制について,イスラム教の教義との関係で問題があるとして,裁判所の違憲判断が示されたことにあるといわれている(藤井康博「動物保護のドイツ憲法改正基本法20a条)前後の裁判例」,早稻田法学会誌60巻1号437頁,2009年,461頁)。

*5:本改正による改正前後の条文は,渡邉斉志「最近のドイツ連邦共和国基本法の改正について」(外国の立法209号41頁,2001年6月)・46頁に訳出されている。

*6:ワイマール憲法の当該規定は,敗戦後ドイツにおける国家主権,国際平等を希求する時代精神があったとされる(森下忠『国際刑法の新しい地平』,国際刑法研究12巻,2001年1月20日,98頁〜99頁)。

*7:基本法25条が,国際法の一般原則は,連邦法の構成部分であり法律に優先すると定めることから(国際法優位主義),同16条2項の自国民不引渡し原則に関わらず,その引渡しを許容する条約の締結が許されてきたとされる(前掲森下・98頁〜99頁)。

*8:転換点は,1996年の「欧州連合加盟国間の引渡しに係る欧州連合条約K3条に基づく協定」であり,その7条1項は,自国民であることを引渡し拒否事由とすることを原則として禁じた(渡邉斉志「最近のドイツ連邦共和国基本法の改正について」,外国の立法209号41頁,2001年6月,43頁〜44頁)。ただし,同協定は,「どの加盟国も,第18条第2項に定められた通告の枠内で,自国民の引渡しを承認しないことまたは加盟国によって詳細に定められた条件の下でのみ承認することができる。」という例外を定めていたため(同条2項),ドイツも同協定を受け入れることができた(同書・45頁・注27)。

*9:松葉真美「国際刑事裁判所規程履行のための各国の国内法的措置」(レファレンス平成16年5月号37頁),2004年5月,44頁,戸田典子「国際刑事裁判所のための国内法整備」(外国の立法215号116頁),2003年2月,116頁〜117頁。

*10:同規程89条は,「締約国は、第9部の諸規定及び国内法上の手続に従って,逮捕及び引渡しの要請に応じなければならない」と定め,対象者が自国民であることにつき,実体的な例外を認めておらず,基本法との抵触が問題となった(前掲渡邉・43頁)。

*11:なお,ローマ規程は,国家主権との関係で問題となるものであり,ICCの検察官は,関係国の同意なく直接捜査を行うことができ,締約国当局の立会いなく,個人との面会や個人からの証拠の取得を直接実施できるとされている。フランスでは,憲法院が,この点に違憲判断を示したが,ドイツでは,基本法24条1項が,連邦法によって,高権的権利を国際機関に委譲することを包括的に認めている(齊藤正彰「国際刑事裁判所日本国憲法」,ジュリスト1343号73頁,2007年10月15日,77頁)。

*12:もとより限界はあり,欧州逮捕状に基づくスペインへの引渡しを違憲とした2005年7月18日連邦憲法裁判所判決・判例集113巻273号がある(高橋洋「判批」,ドイツ憲法判例研究会ほか[編]『ドイツの憲法判例Ⅲ』,2008年10月15日,381頁)。

*13:本改正まで,先の注で触れた欧州連合との関係の外(前掲渡邉・43頁〜44頁,45頁・注27),例えば,旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷ドイツ国民が訴追された場合,ドイツ政府が十分な協力をすることができないという問題があった(同書・43頁)。

*14:本改正による改正前後の条文は,渡邉斉志「最近のドイツ連邦共和国基本法の改正について」(外国の立法209号41頁,2001年6月)・46頁に訳出されている。

*15:当該規定は,第7次改正の時点では,12条3項2文に規定されたが,緊急事態条項を整備した第17次改正では,12a条4項2文に移された。

*16:藤純子「女性兵士に関する欧州裁判所判決」(ジュリスト1176号83頁,海外法律情報・ドイツ),2000年4月15日。

*17:前掲斎藤の外,渡邉斉志「最近のドイツ連邦共和国基本法の改正について」(外国の立法209号41頁),2001年6月,41頁〜42頁。

*18:実際,ハノーファー行政裁判所が,欧州裁判所に判断を求めた時点では,軍人法や軍事職処遇規則と欧州共同体指令との整合性のみが問題とされており,基本法の改正が問題となるとまでは認識されていなかったという(前掲渡邉・44頁・注5)。

*19:女性が武器を使用する任務に従事することを禁ずる本改正前の基本法12a条4項2文は,防衛上の緊急事態において女性の(強制的な)徴用を許容する同項1文を受けた規定であるため,「防衛上の緊急事態」の場合,或いは「徴用」(強制的な義務)に限って,その限界を定めたものにすぎないと解することが可能であった(前掲渡邉・42頁)。しかし,そのように解するとした場合,「徴兵」(強制的な兵役)においては,男性であっても,武器を使用した任務の拒絶(良心的兵役拒否)の権利(喜夫本法12a条3項)が認められていることとの関係が問題となろう。実際,自由党などには,そもそも女性の武器使用任務に関する規定自体を削除してしまうおうという立場もみられた(前掲渡邉・同頁,44頁・注12)。

*20:女性の志願兵に対しても武器使用の任務を解禁するということ自体に異論はなく(前掲渡邉・42頁),基本法の改正を要するか否かという点は,法学上の形式的な議論にすぎない面があろう。実質的な問題としては,左派の緑の党社会民主党によって,男性との不平等を解消するため,男性の徴兵制自体を廃止してしまおうという議論も提起されたが,欧州裁判所の判決とは無関係な「ためにする議論」であるとの批判がなされ,議会を動かすには至らなかった(前掲渡邉・42頁〜43頁)。

*21:前掲斉藤は,改正不要説が,「法律専門家のほぼ一致した意見」であるが,「誤解を招かないように」,基本法を改めるべきであるとの意見もあるというように紹介する。

*22:本改正を受け,ベルリン州やブランデブルク州のように,上級財務局を廃止し,税務行政を2段階化した州の外,例えば,バイエル州のように,州内の上級財務局等を統合し,州税務庁を設置した州もある(Eike Alexander Senger, Die Reform der Finanzverwaltung in der Bundesrepublik Deutschland. Auflage: 2009, 25. Juni 2009, S. 65, 飯田 淳一「ドイツの税務行政」,税大ジャーナル13号171頁, 2010年2月,176頁)。

*23:BT-Drs. XIV/2668, S. 4. 宮地基「2000年以降のドイツ連邦憲法裁判所判例の動向について」,明治学院大学法律科学研究所年報30巻5頁,2014年,6頁参照。

*24:当時の問題状況は,例えば,1997年の社会民主党緑の党基本法改正案の提案理由(BT-Drs. XIII/8249, S. 1 - S. 2)に端的に示されている(邦訳:浅川千尋『国家目標規定と社会権』,2008年8月,147頁〜148頁)。

*25:それが人間の利益になる限度で動物を保護するというのであれば問題はないが,動物の利益それ自体を独立に保護することが要請されるとすると,例えば,多数の人間が病死することを許容してでも,動物実験を禁止すべきということにもなり,いわゆる「トロッコ問題」や「臓器くじ」の議論も連想されよう。この点は,第42次改正で追加された「環境保護」の理解においても問題となった(前掲浅川・119頁以下)。

*26:岩間昭道「ボン基本法環境保全条項(20a条)に関する一考察」,ドイツ憲法判例研究会ら編『未来志向の憲法論』・269頁,2001年8月30日,286頁・注22。

*27:各党の改正案の提案理由等は,前掲浅川・147頁〜165頁に邦訳されるが,緑の党・同盟90の草案は[人間中心主義」に批判的な立場にあり,自由党の草案は「人間中心主義」的な色彩が強いとされる(同・167頁〜168頁)。なお,第42次改正以降の議会の動向は,藤井康博「動物保護のドイツ憲法改正基本法20a条)前後の裁判例」(早稻田法学会誌60巻1号437頁,2009年)・442頁〜448頁にも略述される。

*28:同党は,動物保護の課題があることは認めつつ,問題は,法の不備ではなく,法が無視されることにあるとしていた(前掲浅川・165頁〜166頁,前掲藤井・447頁)。また,動物保護を「人間中心主義」の立場から理解していたとされる(同・168頁)。

*29:渡邉斉志「ドイツ連邦共和国基本法の改正」(外国の立法214号177頁,2002年11月)・178頁は,後掲の連邦憲法裁判所判決が転機であると明示するが,前掲藤井・447頁〜448頁は,「判決に重点を置くこともできよう」という表現をとる。

*30:当該判決は,要するに,動物保護法は,無麻酔の屠畜を原則として禁止し,宗教的理由による例外的許可を与えるという構造を有していたところ,イスラムスンニ派の肉屋に対し,無麻酔の屠畜が禁止されるのは同派の一部にすぎないとして,その許可を与えないことが当該肉屋の人格権を侵害するとしたものである(前掲渡邉178頁以下,前掲藤井・448頁以下参照)。なお,「人格権」が問題とされたのは,当該事案が,信者による宗教儀礼それ自体ではないため,直ちに「信教の自由」(基本法4条1項,2項)が問題となるものではなく,また,基本法の「営業の自由」(同法12条)は,外国人には保障されないためである(前掲藤井・455頁参照)。

*31:憲法レベルの動物保護は,人権を始めとする他の憲法益との間で,個別に衡量判断がされることになる(ドイツ憲法判例研究「国家目標規定と動物保護委員会(審議会)意見聴取手続」,自治研究91巻5号143頁,2015年5月,146頁)。

*32:同判決が911事件の直後であり,イスラム社会に対する嫌悪感が増していたこともあって,判決に対する反発が強く,これを実質的に覆すため,改正による政治決着が図られることになったと指摘される(前掲藤井・460頁〜462頁)。

*33:2000年12月7日,条約を国内法化するための承認法(基本法59条2項1文)であるローマ規程批准法が公布され,同月11日,批准書が寄託された(戸田典子「国際刑事裁判所のための国内法整備」,外国の立法215号,2003年2月,116頁)。

*34:国際刑事裁判所に関するローマ規程126条1項「この規程は、六十番目の批准書、受諾書、承認書又は加入書が国際連合事務総長に寄託された日の後六十日目の日の属する月の翌月の初日に効力を生ずる。」

*35:ニュルンベルク国際軍事法廷ルワンダ国際戦犯法廷のようにアドホック国際法廷とは異なる点で画期的であったとされる(松葉真美「国際刑事裁判所規程履行のための各国の国内法的措置」,レファレンス54巻5号37頁,2004年5月,37頁)。

*36:Werle Gerhard,葛原力三[訳]「国際刑法の国内法化について」,ノモス15号57頁,2004年12月25日,57頁。前掲松葉・41頁。

*37:ただし,その法的義務があるとはいえないようである(前掲Gerhard・57頁)。他方,補充性の原則には,国内の法制を整備しないと,自国民が国際刑事裁判所や他国の国内裁判所で処罰されることになってしまうという側面もある(前掲松葉・40頁)。

*38:厳密には,「国際刑法典を制定するための法律」(BGBl. 2002 I S.2254)の第1条が規定する規律である。その具体的な内容については,例えば,前掲戸田・121頁以下,前掲Gerhard・60頁以下を参照されたい。

*39:本改正と併せて,裁判所構成法120条が改正され,国際刑法典に規定する犯罪については,第26次改正で問題となった政治犯罪についてと同様,州高等裁判所を第一審とする二審級の審級構造がとられることになった(前掲戸田・123頁)。

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